SPDの首相候補であるショルツ財務相兼副首相の人気が国民の間で高いことも、このシナリオの蓋然性を物語る。Forsaが有権者に対して、首相候補に直接投票できるなら誰に投票するか尋ねたところ、回答者の29%がショルツ氏を選択、与党連合のラシェット氏の17%や同盟90/緑の党のベーアボック氏の15%を引き離した。
政権運営の経験不足…環境政党「同盟90/緑の党」の失速原因
それではなぜ同盟90/緑の党が失速し、SPDが復調したのだろうか。一つに、総選挙が近づくにつれて、SPDの政権政党としての経験を有権者が再評価したことがあると考えられる。言い換えれば、これは政権政党としての経験に乏しい同盟90/緑の党に対して、有権者が慎重な見方を強めているということにほかならない。
同盟90/緑の党に関しては、同党の首相候補であるベーアボック共同党首に数々の醜聞が生じたことも逆風に働いた。ベーアボック氏に関しては今年の初夏以降、自身の所得や経歴、著作に関してさまざまな疑惑が浮上、政治家のスキャンダルには寛容なドイツとはいえ、さすがに有権者の心証が悪化する事態は免れなかったようだ。
同盟90/緑の党が掲げる選挙公約に対して有権者が反発している側面も看過できない。とりわけ炭素税の大幅な引き上げに言及したことは、有権者の強い反発を招いた。具体的に言うと、現行だと2023年に1トン当たり35ユーロ(約4500円)となる炭素税の負担額を、同党は60ユーロ(約7700円)まで引き上げると主張した。
それでも20%近い支持率を維持しているという意味で、有権者の同盟90/緑の党に対する支持には根強いものがある。保守連合とSPDに代わる第三の選択肢として、同盟90/緑の党が一定のプレゼンスを確立していることに間違いはない。とはいえ「環境先進国」とされるドイツでも、環境政党への支持が広がり切らない現実がある。
外交でも「卓袱台返し」を主張する同盟90/緑の党
環境対策そのものは時代の要請であり、保守連合もSPDもその必要性を十分に理解している。問題は手段であり、保守連合やSPDは現実主義的なアプローチで臨もうとしている。それに比べると、環境政党である同盟90/緑の党のそれはやはり原理主義的であり、実現可能性に乏しかったりバランス感覚を欠いていたりする側面が否めない。
過激な主張は環境対策だけではない。同盟90/緑の党は外交の分野でも、これまで保守連合やSPDが積み上げてきた実績を否定するような主張を展開している。平和の理念に燃えると言えば聞こえが良いが、悪く言えばそれは「卓袱台返し」であり、与党連合とSPDからは舌鋒鋭く批判され、有権者の支持離れをもたらしたようだ。
例えばドイツとロシアとの間を結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」は、ドイツが気候変動対策を進めるうえで不可欠な天然ガスの安定的な調達に資すると期待される計画だ。しかし同盟90/緑の党は、天然ガスが化石燃料の一種であることや安全保障上の懸念があることなどを理由に、同計画を受け入れないと表明した。