職員が馬鹿にしたように笑う場面も

「最終報告書」には、2月26日午前5時15分頃、ベッドから落下したウィシュマさんが、「数回に渡り」インターフォンで職員の呼び出しを試みたことが記されている。2名の職員がベッドに戻そうとするも、持ち上げられず、勤務者が増える8時頃まで床の上に寝かせていたことが、さも「やむをえなかった」ことのように書かれていた。

映像を見たご遺族によると、ウィシュマさんは泣きながらインターフォンで「23度」にわたり職員に助けを求めていたのに対し、職員は「そこには行けない、自力でやりなさい」と答えていたという。

その後、職員が部屋に来たものの、手や服の一部などを引っ張り、ウィシュマさんに対し「肩を上げなさい」など自力で動くよう指示した上、「大声出さないで」などと対応したという。体を持ち上げてベッドに戻そうとする様子にはとても見えなかったという。

「最終報告書」には、亡くなる5日前の3月1日、ウィシュマさんがカフェオレを飲もうとしたところ、うまく飲み込めずに鼻から噴出してしまう様子に、「鼻から牛乳や」と職員が発言していたり、亡くなった当日でさえ、反応を殆ど示さないウィシュマさんに対して「ねえ、薬きまってる?」などと発言していたと記されていた。

だがビデオを見たご遺族は、他にもウィシュマさんの尊厳を傷つけるような発言があったと指摘する。ベッドの上で、自力で体を動かせないウィシュマさんを介助しようとした職員が、「重いですね」「食べて寝てを繰り返しているから太っている」と馬鹿にしたように笑う場面もあったというのだ。

記者会見に臨んだウィシュマさんの妹、ポールニマさんは、痛がっているウィシュマさんに対し「手や足を引っ張ったり、まるで動物のように扱っていました。姉にこのような扱いをしたのであれば、他の外国人にも同じことをするのでは」と憤る。「ここで働く人間には心がないのでしょうか?」。

暴言を吐いた職員について、この日の午前中に遺族と面会した入管庁の佐々木長官は、「注意と指導はしています」と述べるにとどめ、具体的な処分について踏み込んだ発言はなかったという。

国は監視カメラの映像を隠し続ける

あくまでも「保安上の理由」を国側は掲げ続けているが、過去に国賠訴訟の過程などで内部の映像は開示されている。

2014年、茨城県牛久市の「東日本入国管理センター」の入管施設でカメルーン人男性が亡くなった後、原告である遺族側が裁判の中で国に映像の提出を求めた。

遺族側の代理人を務める児玉晃一弁護士によると、国側は裁判所に、職員がさも適切に対応していたかのように見える部分だけを恣意的に切り取り、編集した45分のビデオを“証拠”として提出してきたという。

開示された監視カメラの映像を見ると、床をのたうち回るほどの苦痛を訴え続け、「I'm dying」「みずー」と叫ぶ、あまりに凄惨な状況がそこに映し出されているが、カメラはそんな男性に、対応にあたった職員がぞんざいな対応をし、体の上をまたいでいく様子も捉えていた。さらに、職員たちは監視カメラで男性の様子を観察しても、動静日誌に「異常なし」と書き込んでいたという。

そもそもこれは、国の管理下の施設で起きた事件であり、ウィシュマさんが映るビデオは、佐々木長官や上川法務大臣の私物ではない。

撮影=安田菜津紀
入管関係者にポールニマさんと共に署名を提出する「学生・市民の会」。