米中対立の真の戦場は経済とテクノロジー

つづいて地経学的対立について論じてみよう。

実はアメリカと中国の真の戦場は、経済とテクノロジーの領域にある。なぜなら、軍事的には中国はいまだアメリカに対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、アメリカ一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからだ。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものである。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきた。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることだ。その典型が「中国製造2025」である。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのである。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵せんぺい」だ。たとえばイギリスがアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのだ。

バイデン政権になっても中国への強硬姿勢が変わらないワケ

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからだ。

エドワード・ルトワック著、奥山真司訳『ラストエンペラー習近平』(文春新書)

トランプ政権になって、アメリカがそうした行為を厳しくとがめ、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのだ。

トランプは2018年3月に鉄鋼25%、アルミニウム10%、さらに中国からの輸入品600億ドル分にも追加関税をかけると発表した。そして7月から9月にかけて2500億ドル分の中国製品に追加関税をかけたのである。

これらの措置は中国経済に大きなダメージを与えた。この関税戦争は、2020年1月に、トランプ大統領と中国の劉鶴りゅうかく副首相が合意書を交わすことで一応の収束をみたが、地経学的臨戦態勢は続いている。バイデン政権になっても、トランプ時代におこなった中国への追加関税は維持されたままなのだ。

関連記事
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」
「インド太平洋戦略はゴミ山に捨てるべき」中国が激しい言葉で日本を中傷する本当の理由
「なぜ日本は中国との泥沼の戦争を選んだか」84年前の日本政府が間違った根本原因
「このままでは中国の属国になる」最悪シナリオ回避のため日本に残された"唯一の選択肢"
欧米の「日本いじめ」の結果、後発国で「中国の石炭火力」が普及するという皮肉