防衛白書は「懸念」ではなく、「脅威」と記すべきだった

産経社説は「中国を苛立たせた白書だが物足りなさもある」と指摘し、その理由をこう解説する。

「中国を『脅威』と明記せず、昨年同様、『わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念』とするにとどめた点だ。白書に反発し、尖閣を奪おうとすることこそ脅威の証だ。脅威の認識を明確にしなければ国民に危機感が十分に伝わらず、外交や防衛政策を展開しにくくなる」

「脅威」は威力による脅しを指し、「懸念」は不安や心配を意味する。明らかに習近平政権の安全保障を無視する行動は「脅威」そのものである。産経社説が主張するように防衛白書は「懸念」ではなく、「脅威」と記すべきだった。

この連載で指摘してきたように、習近平政権は台湾に対しては軍事的脅しを続け、香港では強制力や言論弾圧で民主派を排除した。軍事力をバックに東シナ海や南シナ海に人工の軍事要塞を築き、尖閣諸島周辺の海域では中国海警船が侵入を繰り返しては日本漁船を追い回している。どれも国際社会のルールに大きく背く行動であり、決して許されない。

台湾や香港だけでなく、新疆ウイグル自治区のジェノサイド(集団殺害)という問題についても、絶対に譲ることのできない「核心的利益」、他国の口出しを認めない「内政干渉」と断言し、弾圧を続けている。

それにもかかわらず、日本政府は習近平政権を「脅威」とは断定することを避けた。これでは中国の増長は止まらないだろう。

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「中国と平和的で安定した関係を」と訴える朝日社説

7月14日付の朝日新聞の社説は「対中、懸念のその先は」との見出しを立て、書き出しからこう訴える。

「中国の軍事的台頭に対する強い警戒感が伝わってくる。一方で、信頼醸成への取り組みや対話が進んでいない現状もある。中国と平和的で安定した関係を築くには何をすべきか。政府は懸念の先を示す必要がある」

朝日社説が訴えるように「平和的で安定した関係」が構築できるのならば、異論を挟む余地はない。しかし、それが難しいという現状をどう受け止めているのだろうか。あまりに理想主義ではないだろうか。