「最後の仕上げは、あなたのフライパンで」

また、商品プロモーション動画は通常テレビなどのメディアに取り上げられることは少ないが、「冷凍食品は手抜き? 手間抜き?」論争があったからこそ、アンサー動画をワイドショーなどで取り上げてもらうこともできた。

本田哲也『ナラティブカンパニー:企業を変革する「物語」の力』(東洋経済新報社)

ステークホルダーという考えでいくと、味の素冷凍食品の従業員、とりわけ工場で働く人のモチベーションが上がった。さらに営業担当の間でもこれを売り上げに結び付けようとする気運が高まったという。

ナラティブを描き出すという視点で見れば、味の素冷凍食品にはパーパスに近い考え方─冷凍食品をうまく利用していただいて、有意義な時間に使ってください─があった。

そこに共感が生まれ、ストーリーとしてうまく展開しメディアや有識者、SNSなどがそれに巻き込まれたのだ。味の素冷凍食品の動画は、次のようなメッセージで締めくくられる──「最後の仕上げは、あなたのフライパンで」。

「手抜きではなくて手間抜き」というナラティブは、同社と生活者が共につくりあげたものだ。論争へのアンサーソングとして制作されたこの動画の最後で、味の素冷凍食品は再びバトンを生活者に渡している。

「コミュニケーションの余白」が、意図的に設けられているわけだ。このメッセージには、SNSでも「この言葉を見て、味の素さんと一緒に料理して作った餃子なんだなぁと思うと嬉しかったです」

「沢山の手間を食品工場が代わりにやってくれて、最後のひと手間として、フライパンで焼いてくださいね、ということですね」といった好意的な反応が相次いだ。まさに、同じ物語に参加しているという「共体験」の構造がそこにある。

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