「ウイルキンソンはいつもノートに金額つけて給料日になると他の兵隊から集金する。金貸しで大切なのは『大金は貸さない』こと。10ドルか20ドルといった少額にすれば貸し倒れは少なくなる。手間はかかるがリスクも少ない。それがユダヤ人のビジネスの基本なんだ。彼らにとって一攫千金はビジネスじゃない。『あっちから100円、こっちから200円』とこつこつ集めるのがビジネスで、それだけは忘れるな、と仕込まれた」
いきなり満塁ホームランを打とうなんて発想が間違っている
「また、少し後のことだが、藤田商店ではダイヤの輸入もやっていたんだ。あるとき、シカゴの『マッソーバーブラザーズ』というディーラーへ約束した時間に行ったら、一時間も待たされた。実はこれから結婚するというヤングカップルが来てダイヤを買いたいというので相手をしていたから遅くなった、申し訳ないと言う。
僕は、『あんた、そんなゴミみたいなダイヤを買う客を相手にするな』とつい口がすべった。
すると、『ミスターフジタ、あなた、そういう精神じゃ成功できない。小さなダイヤを一個買いに来た客をいかに大切にするかが成功するかしないかの別れ道なんだ。
そりゃヤングカップルだから今年は小さなダイヤかもしれない、しかし来年そのダイヤを原価で引き取ったら、彼らはほんの少し大きなのを買ってくれる。そして毎年、少しずつ大きなのを買ってくれるようになって何十年も経ったらずいぶんと大きなダイヤを買ってくれる。ビジネスというのは小さなことの積み重ねなんだ。いきなり満塁ホームランを打とうなんて発想が間違ってる』と、金貸しのウイルキンソンと同じことを言われた。
ウイルキンソンに会ってから僕は少額の積み重ねを大事にするようになった。マクドナルドもそうでしょう。ハンバーガー一つ売って10円、20円の商売をやってるんだから」
「敗者の美学」なんてビジネスの世界にはない
ユダヤの商法を見習い、藤田は貿易商としての仕事に打ち込んだ。扱い品は主に婦人向けの雑貨と宝石。「女と口」を狙うのが儲けるコツ、これまたユダヤ人から習ったことである。
クリスチャン・ディオールのハンドバッグ、スワロフスキーのクリスタルといったブランド物を初めて輸入したのも彼だ。
マクドナルド、玩具の小売である「トイザらス」、貸しビデオの「ブロックバスタービデオ」、ネクタイの小売「タイラック」といった海外ビジネスを日本に紹介し、かつ経営者として腕を振るう、始まりは藤田商店だった。
そして、彼のビジネスには共通するテーゼがある。それは「勝てば官軍」というもの。
「敗者の美学」は文学の世界だけで、ビジネスの世界では百害あって一利なし。文学でメシは食えないし、金儲けはできない。
藤田は金儲けにまい進した。それも、死ぬまで、である。