ゴキブリが天井からぽたぽたとふってきたことも

「トイレで200本のションペットを流した時には、ちょっと人格が変わるんじゃないかと思いました」と、社員の平出勝哉さんが打ち明ける。

勤務10年目の社員、大島英充さんも、ションペットを処理する時は「これをやらないと終わらないぞという、ある種の覚悟が必要ですね」と苦笑いする。

大島英充さん。特殊清掃の防臭マスクをしている。

社員の仕事では「特殊清掃」(遺体の腐敗でダメージを受けた室内の原状回復をする作業)も厳しい仕事だ。連載7回目で紹介したように、腐敗した遺体からわいたウジやハエの殺虫作業のほか、人が亡くなった場所の体液や血液は手で拭き取っていくことになる。

「あんなに大量のハエを見たことはなかった」と私が言うと、大島さんが「ハエはよくありますよね」と事もなげに言う。

「殺虫作業で、ゴキブリが天井からぼたぼたとふってきたこともありますし、死んだネズミやネコに遭遇することもありますしね」

 

「自分の家の不要品」をゴミ部屋に運び込んできた

それでも作業後に依頼人から「ありがとう」と言われれば前向きな気持ちになるが、感謝どころか「文句」を言われたこともあったという。大島さんが話す。

「まだ入社して1年目の時ですよ。ゴミ屋敷に住む人からの依頼で、『キッチンまわりをきれいにしてくれ』と。もちろん一生懸命やったのですが、作業後に『もっときれいにしてもらえると思った』と言われたんです。ハウスクリーニングのレベルを求められていたんですね。僕らは『整理業』であって、『清掃業』ではありません。今なら最初に契約を交わす時にそのあたりの説明も正確にするのですが、当時は新人でしたからね……。結局、丸一日かけて1人で掃除をしました。キツい現場や作業の内容より、お客さんの言葉で疲れ具合が変わると思います」

孤独死現場の第一人者で同社事業部長である石見良教さんも、過去に依頼人とトラブルになったことがある。

撮影=松波 賢
事業部長の石見良教さん

「高齢の男性が認知症を発症し、生活保護を受けながら暮らしていたのですが、部屋がゴミだらけになってしまったんです。それで男性の娘から『介護を受けるために環境を整備してほしい』という依頼がありました。ところが作業日に、車に乗って娘たちが現れ、“自分の家の不要品”を男性(父親)の部屋に運んできたのです」