IT技術と罰則で抑え込んできたが…
台湾では、これまでコロナの拡散が非常に少なかったことから、一度、感染者と認定されると「案件番号」が背番号のように付けられる上、例えば、どこで外食したとか、交通機関をどこで利用したかといった社会活動の内容がすべて細かく発表される。
こうした公表により、一般市民は感染者の動きを把握し、同じような行動をしていた心当たりがあれば、PCR検査を受けて感染していないかを確認することができる。さらに感染者が立ち寄った先に出入りしていた市民には、スマホの通信機能で行動履歴をさかのぼり、警告がSMSで流れてくる仕組みにもなっている。
IT応用をめぐっては、政府や政治家がSNSを使って速効性のある情報公開を進めることで、感染発覚後の措置を的確適切に実施。オードリー・タン(唐鳳)デジタル大臣の主導で「在庫が今どこにあるかがすぐ分かるマスク実名制配布」「データを活用した厳しい隔離体制」など次々と対策を打ち出してきた。
よく知られているように、これらのコロナ対策の中には罰金を伴う厳しい規制もある。例えば、中国から戻った男性が隔離中にもかかわらず外出を繰り返したとして100万台湾ドル(約370万円)の罰金を科せられたほか、隔離先のホテルで数秒間廊下に出ただけで10万台湾ドル(約37万円)の支払いを求められたケースもある。
このように徹底した「水際対策」をとっていたのに、ウイルスの流入を許してしまったほころびはいったいどのように生まれたのだろうか。
1.航空関係者の隔離期間が短い
原因の一つは、各国を行き来する航空関係者の隔離期間を緩めすぎた点にある。
いま起きている感染拡大の発端は、チャイナエアライン(中華航空)貨物機のパイロットが英国由来の変異株「B117」を持ち込んだためとされる。4月中旬、乗務から戻ったクルー向け隔離施設のひとつ「ノボテル桃園国際空港」に滞在していたこのパイロットを起点に、同僚のクルー、さらに同ホテルで働く従業員に感染が広がってしまった。同ホテルを起源とするクラスターで22人の感染者を出している。
台湾では現在、パイロットなどのクルーがワクチン未接種にもかかわらず、隔離期間は3日間だけとなっている。当初は14日間だったが、これを5日間に短縮。さらに3日間まで縮めてしまった。巣ごもりによる通販利用の急増で貨物機の需要は空前の高まりをみせており、隔離期間を短くしてパイロットらの勤務間隔を強引に縮めようとした疑念がある。こうした利益重視の施策が、結果として水際対策のほころびにつながった可能性は高い。