2.「地方の名士」がスプレッダーに

2つ目は、地域に影響力のある地方の名士が感染源となったことだ。台湾の現地メディアは5月11日、空港にほど近い新北市に拠点を置く社会奉仕団体「ライオンズクラブ」の会員とその家族らから感染者が出たと初めて報じた。会員らは5月4日、同市内の中華レストランで宴会を催したことがその後の調べで分かっている。

会員らへの感染経路が不詳なため、ウイルスの遺伝子を調べたところ、貨物機パイロットが台湾に持ち込んだものと同一と判明。つまり、「ノボテル」のクラスター感染は、航空会社クルーやホテルの関係者だけにとどまらなかったのだ。

ライオンズクラブといえば、世界各国・地域の名誉職や経営者、篤志家などが会員として名を連ねている組織だ。ところが、この地域の前会長とされる人物は、自身がコロナに感染していることを知らぬまま、4日の宴会の後、台北市内の萬華区にある風俗街で「どんちゃん騒ぎ」を起こした。

飲んで歌っての大騒ぎで10人が感染

立ち寄り先は1軒にとどまらず、複数の店をはしご。酒を飲んで騒ぎ、歌い、「接触」を繰り返したという。7日にはすでにコロナ感染の典型症状が出ていたのに、9日に発熱を理由に診察を受けるまで、連日市内のあちこちの飲食店を立ち寄っていた。こうした状況をつかんだ保健当局は12日、115人の感染状況を調査した。

「前会長」は風俗街だけで少なくとも10人を感染させた。国立台湾大学の林先和副教授は英公共放送BBCに対し、「前会長はスーパースプレッダーと認定できる」と話している。さらに、ブルームバーグは台湾の一般事情として「退職老人の中には、オレは法律より偉い、と思い込んでいる人がいる」と分析。地方の名士のような人々が風俗店を渡り歩いた行動履歴をつまびらかに話すとは思えない。これは感染経路を確認するに当たって大きな障害にもなり得る。

3.封じ込めの成功体験がアダに

パイロットから始まったウイルス拡散だったが、最終的にクラスター認定は「ノボテル」のほか、「ライオンズクラブの宴会(5月14日現在で25人が陽性)」「萬華の風俗街(同、23人)」そして、風俗街にいた感染者が遊びに出かけたことで広まった「宜蘭県のゲームセンター(同、9人)」の計4つとなった。しかし、パイロットからライオンズクラブ会員らにどう感染したのか、その経路は1カ月以上たった今も判明していない。