何のために出世するのか

――女性の自己評価の低さと労働環境の過酷さという2つの理由が、女性管理職が増えない理由だということですね。

【朱野】そもそも女性は時短勤務など仕事ができる時間が制約されがちで、所得も低く止まりがちですよね。定時で帰る結衣も残業代がつかないので給与は同期より低いです。人は“自分につけられた給料=自分の評価”と思いがちじゃないですか。だから、余計な残業をしていても給料が高い人は自己評価が上がり、定時で仕事を終わらせても給料が低い人は「私なんか……」となる場合もある。お金って怖いなと改めて思いますね。

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――そんな結衣が、今回は自分より若い世代を守るために出世しようと考えます。

【朱野】自己評価の低かった結衣が、なぜ出世しようとするかと考えたとき、自分のためというより他人のため、後進の世代や同僚のためならやるんじゃないかと思いました。実際に今、道なき道を切り開いて部長や役員になっている女性もそうなんじゃないでしょうか。なかなか自分の成功のためだけには頑張れないですよね。特に氷河期世代以下は、就職するだけで大変だったので、やっと働いて給料もらえて、そこからさらに頑張ろうというときは周りの人のためという気持ちが大きい気がします。

リモートワークが極楽の人と悲劇の人

――「ライジング」はコロナ禍前の物語ですが、2020年からはリモートワークが急速に普及し、会社員の勤務形態も激変しました。この変化をどうとらえていらっしゃいますか。

【朱野】個人差もあるけど、世代差も大きいんじゃないでしょうか。私と同年代の40歳前後はリモート勤務は極楽で、「二度と会社に行かない」なんて言う人が多めです。これまで毎日通勤していたのに、月に一度の出社日だけでボロボロになって帰ってきたり(笑)。「なぜあんなところに1時間かけて行っていたのかわからない」と。でも、その上司世代は「出社しないと落ち着かない」人の方が多めのようです。その人たちにとってリモートワークは悲劇かもしれません。今後、デジタル化が進んでいる企業ではリモートワークを続けつつ、自宅から近いサテライトオフィスやコワーキングスペースが使われるようになっていくのかなと予想します。

――ということは、残業は減るのでしょうか。

【朱野】今作で取材をさせていただいた企業の人事部の方によれば、自宅作業はオフとオンの境目がつかず、残業もじわっと増えてしまうようですね。なかなか難しい。ただ、効率が悪くなってしまうのはリモートワークだからではなく、今は外出しづらく、アフター5にやることがないからではないでしょうか。結衣のように定時で切り上げて飲みに行くこともできないし、オンオフの切り替えがうまくできない。リモートワークでかつコロナ禍じゃないという夢のような状況が生まれたら、また変わってくるのかしれませんね。