「いずれ中国は啓蒙される」と考えていたドイツ
【安田】日本は2005年の反日デモあたりからずっと中国への警戒心がありますが、欧州各国の場合、近年の米中対立やコロナ流行で、ようやく警戒モードに入った感じでしょうか。
【マライ】かもしれません。私は日本で暮らしていて、勤務先であるZDFの北京総局の情報も入ってくるので、母国のドイツ人よりも早い段階で、中国に懸念すべき点があるという情報が入ってきていました。
ただ、ドイツ国内の人たちの中国に対する認識はまだ無邪気な気がします。中国が国際秩序に挑戦する覇権国家と化していることにも、まだ気がついていない人が多そうです。
【安田】そもそも、ドイツの中国の友好関係って何だったのでしょう?
【マライ】同床異夢だったと言えるかもしれません。これまでドイツ側には、ビジネスによって交流して仲良くしていけば、中国はやがて啓蒙されて、民主主義社会の良さに気付いて変わってくれるだろう、という思い込みがあったんです。
【安田】「啓蒙」ときましたか(笑)。西側民主主義の正しさをまったく疑わない文化圏の人たちじゃないと、なかなか出てこない単語です。
【マライ】そう(笑)。思い込みというか、ヨーロッパ人の思い上がりですよね。もっとも、ドイツの場合はこれに加えて、過去の自国の成功体験がありました。かつて旧東ドイツに対して、友好路線でアプローチを続けた結果、ベルリンの壁が崩れてドイツが統一された。
中国についても往年の東ドイツと同じように、人々が心のなかでは自由な民主主義社会を望んでおり、共産党支配を崩壊させていくに違いない。そう考えた人が少なくなかったのではないでしょうか。
ドイツ人には微妙な「ウイグル強制収容所」問題
【安田】ドイツと中国の関係は「経済」を理由とした友好関係のほかに、本来は「人権」をベースとする批判も活発です。たとえば、中国国内で迫害を受けている少数民族ウイグル人の世界組織「世界ウイグル会議」総裁のドルクン・エイサは、長年ミュンヘンに滞在しています。
【マライ】ドイツは人権団体が強くて、亡命者のための法整備が比較的整っているんです。
ちなみに世界ウイグル会議の拠点については、冷戦時代にアメリカが対東側向けのウイグル語プロパガンダラジオ放送をおこなっていたことがあって、その拠点がミュンヘンに置かれていたことがきっかけなのだといいますね。ウイグル問題に同情的なトルコ移民のコミュニティがあることも関係していそうです。
【安田】2019年ごろから、中国当局が新疆ウイグル自治区内でウイグル人らを収容しているとされる「強制収容所」(再教育キャンプ)の問題が、英米両国を中心に盛んに報じられるようになりました。
「強制収容所」という言葉は欧米圏へのインパクトが大きかったようです。ドイツの一般人の対中国認識の変化には、この問題も影響していますか?