副作用を恐れる保護者の判断などで接種率は一気に低下
70年ごろから、天然痘ワクチンやはしかや風疹、おたふくかぜなど予防接種や子宮頸がんワクチンでの健康被害が社会問題化し、国は相次いで起訴された。その様子をみた企業も需要が安定した予防接種用の既存ワクチンの製造だけを担う「護送船団方式」で細々と続け、新規開発に及び腰になった。
決定的だったのが92年の東京高裁での国の全面敗訴だ。世論に押される形で国は上告を断念した。94年には予防接種法が改正されて接種は「努力義務」となり、副作用を恐れる保護者の判断などで接種率は一気に下がり、それと同時に日本の製薬会社はワクチン開発から身を引き始めた。
そして薬害エイズ事件がとどめを刺した。この事件で当時の厚生省の担当課長が業務上過失致死罪で有罪判決を受けた。ワクチン接種を許可する行政も一気に腰が引けた。
※編集部註:血液製剤についての説明が間違っていました。当該部分を削除します。(6月3日9時55分追記)
米国はワクチン開発と供給に約2兆円を投資
一方、海外は事情が異なる。2000年ごろから重症急性呼吸器症候群(SARS)やエボラ出血熱、中東呼吸器症候群(MERS)など、致死率の高いウイルス感染症が次々と流行。それへの対応策として、ワクチン開発が急速に進んだ。新型コロナワクチンとして注目を集めるmRNAワクチンはもともとがんの治療手段として研究されていたが、新型コロナに応用された。
米国は01年の炭疽菌事件を契機に、感染症に対する制度や体制を抜本的に見直した。有事には保健福祉省(HHS)が司令塔になって、製薬会社や研究機関などと連携。ワクチン開発資金の支援や臨床試験(治験)、緊急使用許可といった取り組みが一気通貫で進む。
中国の隣国である台湾で、新型コロナウイルスの感染初期に感染者の爆発を防げたのはSARSでの手痛い経験があったからだ。
米国はトランプ政権時にワクチン開発と供給の計画を立ち上げ、およそ2兆円を投資した。バイデン政権は国防生産法に基づいてワクチン製造支援に企業を注力させる方針を打ち出した。中国も政府主導でワクチンを開発し、海外で供給する「ワクチン外交」に乗り出している。