定期テストを廃止、子どもたちの思考パターンが変わった

いずれも「子どもの学力を上げる」という上位目的とは反する現象が起きるのです。

工藤勇一・青砥瑞人『最新の脳科学でわかった! 自律する子の育て方』(SB新書)

そこで麹町中学では定期テストを廃止し、その代わりに出題範囲の狭い単元テストを導入しました。さらに単元テストの点数に納得できなかった子どもは再テストを受けられるように仕組みを抜本的に変えました。同時に宿題も廃止したので、子どもたちは自分にあった勉強のスタイルを確立していかないといけません。

ここまで仕組みを徹底すると、子どもたちの思考パターンは自ずと「わからないことをわかるようになりたい」「テストで良い点が取れなかったけど、もうちょっとなにかできたかもしれない」と能動的になっていきます。定期テストも宿題も無くしたら子どもが勉強しなくなるのではと思われる方が非常に多いのですが、それは「子どもは命令しないと何もできない」という大人の思い込みにすぎません。

とくに子どもたちの学習意欲を掻き立てる効果が高いのが単元テストの再テスト制です。テストを受けるかどうかは完全に任意で、再テストを受けたら2回目の点数が成績になる仕組みになっています。すると子どもたちの頭のなかで何が起きるかいうと、クラスメイトに勝つか負けるかの発想から、1回目のテストを受けた自分に勝ちたいと発想が変わるのです。

自分の勉強法をアップデートする子どもが出てくる

1回目が不本意な結果だと自分の課題を解決しようという意思が働き、わからないものをわかるようにするためにはどうしたらいいかといろいろ考え、友達に聞いたり、インターネットで調べたり、教員に聞いたり、図書館に行ったりと自分なりに試行錯誤をはじめます。もちろんその間、教員からこれをしろ、あれをしろの指示は一切ありません。

最初のうちは子どもたちも何をすべきか戸惑って、大半の子どもは仲良しグループのなかで質問をしあったり、仲のいい先生に質問をしたりすることからはじめます。多くの子どもにとってはそれ自体が異質な体験であり、もしそこで問題が解決できれば、「困ったときは人に聞けばいいんだ」とひとつ学ぶことができます。

さらにそれを何回かやっていると、「この科目は親友に聞けばいいけど、数学をもっと上手に教えてくれる人っていないのかな」といった具合に、自分の勉強法をアップデートしようとする子どもが出てきます。

たとえば親友に「このクラスで数学を教えるのが一番上手な子って誰かな」と聞いてみて、その子との接点がないのであれば共通の友人を介してお願いをするなどを自主的に行うようになります。それでうまくいけば、今度は「相談する相手って大事なんだ。人脈を広げれば相談相手は増えるんだ」という学びを得ることができ、それを繰り返せるようになります。

麹町中学の子どもは3年生にもなると先生がなにも言わなくてもみんな勝手に学び合う環境に変わります。視察に来られる方はその光景に一様に驚かれますが、それが実現できるのも、口先だけではなく、徹底的にプロセスに意識が向くように環境を整えているからです。

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