熟年離婚はすでに日常的な話題になった感があるが、離婚は家計に大きなダメージを与える。いままで1つだった家計が2つに分かれれば、住居費も光熱費も、当然、2倍かかることになる。資産を分割すれば、資産運用の効率は低下する。年金を分割すれば、それぞれが貰える額が中途半端になり、年金だけで生活していくことは不可能になる。

要するに、1つだったものを2つに分けることによって、トータルの支出は増加するのに、収入は減少するのだ。離婚は家計という観点から見たとき、極めてマイナスの大きな選択なのである。収入の減少によって教育費、住宅ローンといった固定費が家計を激しく圧迫しはじめ、そこに年金、介護、離婚といった難題が降りかかってくる。この難関をくぐり抜ける知恵はあるのだろうか?

私がファイナンシャルプランナーになってから読んだ本の中で忘れられないものの1つに、『イギリス節約生活』(アリスン・デバイン著)がある。ここで描かれているイギリスの庶民の生活は、驚くほど質素であるが、同時にとても幸せそうなのだ。イギリスの一般庶民は、1つの部屋に家族全員が集まってテレビやビデオを見て、休日には知人の家を訪問してビデオ鑑賞やゲームに興じる。1つの部屋、1軒の家に集まるのは、テレビが一家に1台しかなく、お金がかかるレジャーに出掛ける余裕がないからだ。

この本を読めば、おそらく読者の多くが映画『三丁目の夕日』を連想することだろう。昭和30年代の日本の一般家庭は、この本に描かれているのと同じような生活を送っていた。家族の団欒が楽しみだったと言ってもいい。それに比べると、いまの日本の一般家庭には、大型テレビがあり、何台もパソコンがあり、各部屋にクーラーがあり……実に贅沢な生活を送っている。にもかかわらず、幸福感が薄い。

つまり、『イギリス節約生活』が教えてくれるのは、個が個として生きるほど、お金がかかるという事実だ。家族が分断されて、個になるほど支出は増えていく。そして、個が個として生きるのに比例して――皮肉にも――幸福は遠のいていくのだ。離婚はその最悪の状況である。

私は、家計の見直しをしたいという方に、ゼロ・リセットを勧めている。1度、生活のすべてをリセットして、新婚家庭のようにゼロから再スタートするのである。車を手放し、保険を見直し、携帯のプランを見直し、食事のメニューを見直し、住宅の購入を見直し、子供の進学先を考え直す。

ゼロ・リセットをしてみれば、家の中が無駄なもので溢れているのに気づくはずだ。ゼロから、生きていくのに本当に必要なものだけをセレクトしていけば、平均的な給与の人でも、十分に幸福な生活を送ることができる。実際、ゼロ・リセットによってそれまでの懶惰な生活を一新し、あっという間に住宅ローンを完済してしまった人を、私は知っている。

長引く不況は、家族の団欒を取り戻すいいチャンスかもしれない。新たな中流家庭は、一家団欒の回復から再生してくるのかもしれない。

(構成=山田清機)
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