林さんは「人材の循環を通じて、サイニングストアのインパクトを全店に広げていきたい」と言う。手話が第1言語のパートナーにとって居心地の良い場所で自分の能力を発揮し、自信を持った後は、他店でスキルを活かしてほしいという考えだ。全国に約1600店舗あるスタバで、nonowa国立店と同じような多様性が当たり前の店を作ることが最終的なゴールだという。

この店は社会のロールモデルの一つです

nonowa国立店は6月、開店1周年を迎える。この1年で、地域で広く知られるようになり、さまざまな人が来店する。車椅子の人、高齢者、読んだり書いたりすることに困難を抱える「ディスレクシア」の人――。「多様性を大事にする店が、国立の街にできて誇らしい」。店長の伊藤さんは、地元の人からこんな声をかけてもらうことが増えた。

撮影=プレジデントオンライン編集部
パートナー同士のやりとりも手話が基本。野村さんは「この店は多様性社会のロールモデルだ」と話す

最近、伊藤さんはうれしい瞬間があった。「グランデのドリップコーヒーを手話で表現するにはどうしたらいいのか、ということで何人かの常連さんで盛り上がっていたんです。その場に聴覚に障がいのある方は一人もいなかった。この店がなければなかった会話だなぁ、と思うとうれしかったですね」

聴覚に障害のあるパートナーとの関係にも変化を感じている。オープン当初、伊藤さんは手話の文法にこだわりすぎて、ミーティングなどの場でパートナーに言いたいことを伝えきれないことがあった。しかし、ともに働く中で信頼関係を深め、今は相手に伝わっていないと感じた時は遠慮なく確認し合うことができ、意思疎通がスムーズになった。

野村さんが言う。「毎日来てくれる常連さんとの会話や、一緒に接客するパートナーたちの存在に支えられて、今の私がいる。この店は多様性がある社会のロールモデルの一つだと思う」

お互いを認め合い、誰もが居場所を感じることができる文化をつくる。こんな取り組みの積み重ねが、多様性が当たり前になる社会に近づくのかもしれない。

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