やらされてするのは研究ではない

それ以外にも、「今までやっていたから」というだけの理由で形式的に続けられていたものは、全て見直した。共働きの家庭が増え、平日の昼間に予定を合わせることが難しくなっている家庭訪問は廃止。ただし、緊急時のために児童の家を把握しておく必要があるので、それぞれの家を担任が回って場所だけ確認するようにした。保護者と話す必要がある時は、その都度、個人面談の時間をつくる。

教員同士が授業を見学して教え方を研究する「校内研究」も、多くの学校で行われる定番行事だが、授業を見学した後の協議会は、ほとんど意見が出ない形式的なものも多い。これについても荒川校長が一石を投じた。

「やらされてするのは研究ではありません。あくまで能動的に参加したくなるものでなければ。『協議会では先輩の授業に意見ができない』とか『順番にあてられて仕方なく発言する』のも意味がありません。『活発に意見を言い合えないなら、校内研究も協議会もやめましょう』と言ったら、ようやく雰囲気が変わり、本当に研究授業をしたい人が自ら手を挙げるようになりました。協議会では互いに質問をし合い、抱えている悩みも出し合える場になりました。それぞれの教員が主体的に関わるようになったと思います」

「壊したら」「なくしたら」を恐れて制限をかけない

一つ見直して改善できれば、次の提案にも意欲的に取り組める。環境を整えれば教員一人ひとりが能動的に、前向きに動き出し、その雰囲気がすべて子どもたちに伝わっていくのだという。

「組織がポジティブな方向に動き始めると、ピンチに陥った時でも、先生同士が不安なことを共有し、アイデアを出し合うようになります。例えば今回、(GIGAスクール構想で)1人1台のタブレットが導入されましたが、積極的にアイデアを出し合いながらどんどん新しいことにチャレンジできました」

体育館や校庭に全校で集まって行っていた朝礼も、いち早くオンラインに切り替えて実施(写真=狛江市立狛江第三小学校提供)

狛江市教育委員会では、昨年2020年4月下旬には1人1台を実現させる方針を固め、5月下旬に補正予算を組んで6月中旬にはタブレット契約を済ませていた。多くの自治体では、1人1台の配備が2021年に入ってからだったが、2020年9月末には市内全校への配備を完了、10月1日から使用が始まった。

昨年10月1日、狛江第三小学校では、6年生全員にタブレットを持ち帰らせて、タブレットを使う宿題を出した。課題は、「学校に持って来られない宝物の写真を撮ろう」。家で飼っているペットや自分の机の上にある宝物を撮影するなど、初日から楽しんで使っている様子が見受けられたという。配布当初は持ち帰りを禁止する学校も多い中、荒川校長は迷いがなかった。

「『子どもがタブレットをなくしたり壊したりしたらどうしよう』と心配して使用を制限するのではなく、『いつも子どもたちのそばにあるようにすれば大事に扱うはずだ』と先生たちに伝えました。それでも壊れたなら意図的ではないはずです。最初は心配する先生もいましたが、子どもたちはとても大切に使っています」