逮捕された斡旋業者の経営者

留学生のアルバイトで稼げると宣伝されていた年180万円は、1カ月あたり15万円である。

「週28時間以内」のバイトで稼ぐためには、時給1200円近い仕事に就かなければならない。日本語に不自由な留学生の場合、時給の高い都会で、夜勤の肉体労働をしてやっと稼げる賃金だ。そうしたアルバイトの中身、また就職や大学院進学に必要となる日本語能力にしろ、業者からの説明はまったくなかった。

ブータン政府主導のプログラムとはいえ、留学先となる日本語学校の学費など費用はすべて自腹だ。その額は110万円以上に上った。留学生に払えるはずもなく、ブータン政府系の金融機関が年利8パーセントで貸し付けた。

日本側でビザ発給の可否を審査する入管当局は、留学希望者の経済力を確かめるため、親の年収や預金残高の証明書を提出させている。ブータン人留学生たちが提出した証明書は、斡旋業者が捏造ねつぞうしたものだった。親の年収などが、実際よりもずっと多く記されているのだ。こうした捏造書類を使ったビザ取得も、アジア新興国出身の留学生の多くに共通する。

ブータンではあり得ない収入額が載っているのだから、入管当局が捏造を見破ることは難しくない。しかし、当局は問題にせず、ビザを発給した。ちなみに、捏造の事実は後にブータン捜査当局の調査で明らかになり、斡旋業者の経営者が逮捕されている。

日本で待っていた「低賃金」と「ピンハネ」

「学び・稼ぐプログラム」のブータン人留学生たちは、全国各地の20以上の日本語学校に振り分けられた。ソナムさんが入学したのは、福岡県内の学校である。彼女は来日前、母親にこう告げていた。

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「日本に行って1年で借金を返済し、2年目には仕送りでブータンに土地を買い、家を建ててあげるから」

ソナムさんの一家は貧しく、母親が道路工事の現場で働きなんとか暮らしていた。親孝行な彼女は、ひざの悪い母を気遣い、肉体労働から解放してやりたかったのだ。

留学時に背負った借金は、月約2万円ずつ5年で完済するスキームだった。1年で返し終えようとすれば、返済額は当然大きくなる。ソナムさんは来日当初からアルバイトに明け暮れた。彼女と同じ日本語学校に通っていたブータン人留学生の1人は、私の取材にこう話してくれた。

「ソナムはパンや弁当の製造工場などで、3つのアルバイトをかけ持ちしていました。ブータン人たちは大半が2つのアルバイトをしていましたが、3つのかけ持ちは珍しかった。彼女が『早く借金を返済したい』と口癖のように言っていたことを覚えています」

この留学生は、ソナムさんと一緒にパン工場でバイトをしていた。仕事は夜8時から翌朝5時まで続き、工場までは日本語学校の寮から電車を乗り継ぎ片道2時間もかかった。

時給は、わずか800円だった。福岡県の最低賃金は当時814円である。22時以降は深夜給として最低でも1017円が支払われるはずだが、バイトを斡旋した業者が200円以上をピンハネしていたのだ。