日米関係を重視すべきのはずが…

しかし、韓国の文大統領は、自国経済の安定と成長にとって不可欠な日米との関係の重要性を十分に認識していないように見える。むしろ、最近の文氏の発言からは、経済面で中国を重視する姿勢が一段と強まっているとの印象を持つ。博鰲(ボーアオ)・アジア・フォーラムにて文氏が中国から新興国などへのワクチン支援を高く評価したのはそのよい例だ。その背景には、自動車などの対中輸出を増やして当面の景気回復を実現し、支持率回復につなげたいという文氏の思惑があるだろう。

ただし、長めの目線で考えると、その政策運営スタンスでは、韓国が半導体など自国経済にとって重要な分野で中国企業との価格競争に対応することは難しいだろう。文氏の対中姿勢は、競争相手(敵)を利することになる、といっても過言ではない。

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韓国国内ではそうした見方を持つ人が増えている。4月に入り、財界関係者は文政権に、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長を赦免するようより強く要請し始めた。それだけ、サムスン電子の半導体事業などが韓国経済に与える影響は大きい。逆に言えば、文政権の経済運営によって韓国企業への逆風は一段と強まる恐れがあるとの見方が増えている。

内憂外患はいっそう深まっている

文氏の支持率低下にも、経済環境の先行きを不安視する社会心理が影響しているはずだ。不動産価格の高騰に加え、韓国では若年層とそれ以外の世代の雇用・所得格差の乖離かいり(二極化)が鮮明だ。家計を中心に債務も増加している。

その状況下、サムスン電子などが中国半導体企業に追い上げられ、最先端の製造技術面でTSMCに引き離されれば、同社の半導体輸出の増加などによって外需を取り込み、成長してきた韓国経済には無視できないマイナスの影響があるだろう。

2021年1~3月期の韓国の実質GDP成長率は前期比1.6%のプラスだった(速報値)。文氏は経済が成長の軌道に戻ったと自画自賛しているが、そうした主張とは裏腹に中長期的な韓国経済への不安が徐々に高まっていることは軽視できない。

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