脱炭素には「欧州産業を守る」という政治的な意図がある

欧州連合(EU)はCO2排出をコストとして値付けする「カーボンプライシング」を導入していない国からの製品輸入に対して、事実上の関税を課す「国境炭素調整措置」を検討している。バイデン米大統領も同様の制度導入を公約しており、脱炭素を進めないと日本からの輸出に大きな障害になる恐れがある。

欧州は偏西風が吹くために、安定的に風力発電で電力を賄うことができる。平坦な土地も多いため太陽光発電にも有利だ。このため、欧州の再生エネルギー比率は日本の18%に対して、倍以上の40~50%と高い。風力発電の設備も量産されているため、石炭やガス火力より発電コストも安くすむ。風力発電など再生エネで得られた電力を使って海水を電気分解して水素を生成することも容易にできる。

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しかし、日本は風が安定的に吹く海域は少ない。凪の日も多く、風が吹いたと思えば台風で風車が損傷するなど、条件面で欧州とは差がある。太陽光にしても平地が少ない日本では「もうほとんど太陽光パネルが平地を埋めてしまい、残るのは国立公園や耕作放棄地、さらにはビルや一般家庭の屋根しかない」(資源エネルギー庁幹部)という。

化石燃料に依存しなければならない日本の事情があるわけだが、欧州はこうした日本の「言い分」に耳を貸すことはない。そこには「脱炭素を武器に欧州域内の自国の産業を守ろうとする政治的な意図がある」(同)からだ。

トヨタの豊田章男社長も危機感を募らせる

EUは自動車部品に関しても再生エネなどクリーンな電力を使って製造したものでないと輸入を認めないとしている。日本の自動車部品メーカーが石炭やガス火力発電からの電力で部品を製造した場合、欧州各国から排出権を購入する必要がある。

トヨタの豊田章男社長が「日本は化石燃料による電力が約75%を占め、電力コストも高い。かつて人件費が安い地域へ生産拠点を移す動きがあったが、これからは二酸化炭素(CO2)排出が少ない国で製造する動きが出てくる可能性がある」と危機感を募らせているのもそのためだ。

地理的・気象的な制約があるなかで、日本の電源構成を欧州並みに引き上げるのは容易ではない。菅首相も30年までに再エネ比率を以前の計画より20ポイント高い46%まで引き上げるとを表明したが、土地や海域に制約があるなかで、再エネ比率を引き上げる具体的な方策は打ち出せていない。