一般消費者にコンピュータを売り込むには
アップルについてマークラが思い付く唯一の大問題がマーケティングだった。コンピューターユーザーが企業や大学、政府機関に限られている状況下で、アップルはコンピューターの必要性を一般消費者に向かって訴えなければならないのである。
当時のテレビや映画はコンピューターを恐ろしいマシンとして描いていた。1968年公開の映画『2001年宇宙の旅』は宇宙飛行士を殺害するコンピューターを描き、1977年公開の映画『デモン・シード』はロボットを使って女性を妊娠させようとする人工知能(AI)を描いている。マークラがジョブズとウォズニアックに会う数カ月前には、「コンピューターが秘密裏に人間の脳波を読み取れるようになるというのは本当か?」と質問する上院議員も現れた。
スティーブ・ジョブズは伝道者としてポテンシャルを秘めており、マーケティングで大いに活躍しそうに見えた。だが、マークラが思い描いているアップルはいずれ業界のリーダーになる企業だ。夢見る21歳の青年の情熱とカリスマ性をもってしても不十分なのは明らかだった。
アップルが必要としているマーケティング専門家はどんな人物でありべきなのか。まずは、ロジスティクスを理解し、企画や予測、販売、顧客サービス各部門の調整を担えなければならない。次に、ウォズニアックやジョブズ、ホームブリュー系ヒッピーの力を引き出して、一般消費者(特に郊外に住む中流家庭)のニーズに応えなければならない。
マークラには誰が適任なのかすでに分かっていた。自分自身である。「パソコンをどうマーケティングしたらいいのかイメージできる人なんて、ほかに存在しなかった」と振り返る。