ジョブズの才能はピカ一に見えた

ジョブズはマークラいわく「非凡な才覚を持つ若者」だった。ウォズニアックのコンピューターにいち早く商機を見いだしていたし、粘り強く大胆に行動するスキルも備えていた。

アップル創業の地となったジョブズの実家のガレージ=2007年5月25日
写真=Mathieu Thouvenin/CC-BY-SA-2.0
アップル創業の地となったジョブズの実家のガレージ=2007年5月25日

アップルⅠ用の回路基板ビジネスを見てみよう。回路基板の組み立てに必要なチップについては、仕入れ先と交渉して30日間の支払い猶予で合意を取り付けていた。一方で、回路基板を納入する電器店に対しては、納品時の即金払いを求めていた。つまり、アタリの共同創業者ノーラン・ブッシュネルが採用した「ブートストラップ型経営」を実践していたわけだ。営業マンとしてもピカ一だった。これはと思った潜在顧客を見つけたら、電話を取ってもらえるまで何度でも電話をかけた。

11月中旬、マークラは自宅オフィスに座ってビジネスプランの作成に取り掛かった。あまりにも高速でタイプしていたため、「business(ビジネス)」を「buisness」とタイプミスするほどだった。

大きく3点に焦点を合わせた。第一に、会社の目標と市場を定義した。「まずはホビイスト(コンピューターマニア)市場を踏み台にして大きな市場へ進出する」というシナリオを描いた。

第二に、価格戦略を定義した。「アップルの基本マシンは、特殊な分野向けの専用コンピューターよりも手ごろな値段で売られるべきである。マシンの全機能が使われるわけではないのだから、それを価格に反映させる必要はない」と書いた。

第三に、アップルはコンピューターに加えて周辺機器も扱うべきだと提案したうえで、「コンピューターと周辺機器は利益水準で同程度」と指摘した。周辺機器とは、1.モニター 2.ソフトウエアを読み込むためのカセットレコーダー 3.プリンターやテレタイプ端末用拡張カード――などのことだ。

「史上最速で成長する企業かもしれない」

ビジネスプランを書き進めるうちに、マークラはアップルに対してますます興味を深めていった。現実的に考えてアップルは税引き前で20%の売上高利益率を達成するから、研究開発費を自己資金で捻出できる。家庭用コンピューター産業に大きく技術貢献し、未来の新製品を生み出すパイオニアになれるのではないか!

タイミングも見誤ってはならない。マークラは「家庭用コンピューター市場でアップルは最初にリーダー企業として認知されなければならない。これは極めて重要」と書いた。計算してみると、アップルは今後10年で年商5億ドル企業に成長すると予想できた。史上最速で成長する企業かもしれないと思うと、アドレナリンが出るのを感じた。