難航した出資者探し
アップルへ出資するよう第三者を説得するためにビジネスプランを書いているんだ、とマークラはふと思った。説得は一筋縄ではいきそうになかった。すでにアタリとベンチャーキャピタリストのバレンタインはアップルへの出資を断っている。
ニューヨークに最初のコンピューター販売店を開店したスタン・ベイトも乗り気になれなかった。ジョブズから個人的に「1万ドルでアップル株の10%を買わないか」と誘われながら、出資を見送っていた。後で出資話を振り返り、「世界で最も信用できそうにないのが長髪のヒッピー。とても1万ドルを預ける気にはなれなかった」と語っている。
コンピューターメーカーもアップルへの出資をことごとく見送っている。コンピューター大手のコモドールはジョブズの出資要請を断る傍らで、自社製パソコンの発売に踏み切った。投資銀行も関心薄だった。例えば、後にアップルの新規株式公開(IPO)を手掛ける投資銀行家ビル・ハンブレクト。社内調査チームに「パソコンは一時的ブームで終わる」と言われ、第1回投資ラウンドへの参加を断った。「市民ラジオは一時的ブームで終わる」と正しく予想した実績を持つ社内調査チームを信用したようだ。
しかし、マークラは二つの意味で優位に立っていた。一つは、アップルⅡの現物を自分の目で見ていたということ。もう一つは、すでに数字を分析してアップルの成長軌道を描いていたということ。
もちろん、最初のビジネスプランは「5万フィート(15キロメートル)上空から眺めたような内容」であり、大ざっぱであった。それでありながらも、マークラはビジネスプラン執筆中に高揚感を覚えている。「心からの欲望」と「論理的な帰結」が見事に一致したからだ。アップルⅡが大好きだというのが「心からの欲望」だとすれば、数字のうえではパソコン事業が大化けするというのが「論理的な帰結」だ。