退職金は蒸発するばかりか、700万円もの借金が発覚

翌年(2018年)6月。能登さんは次男を出産。5月から産休・育休に入り、実家へ帰っている間も、義母から「車がないので買物に連れてって」などと電話やメールがあった。

その頃の義父母は、家の雨戸すべてを閉め、朝か夜か分からない生活をし、来客があっても無視。呼び鈴の電池を外して鳴らなくしてしまっていた。能登さん夫婦は、毎日生存確認を兼ねて食料を届けたり、能登さんが食事を作って食べさせたりしていたが、ある日玄関にチェーンをかけてしまう。仕方がないので夫はチェーンを切断。その後も能登さん夫婦は、忙しい仕事や子育ての合間に、毎日2人の様子を見に行っては、山になった食器を洗い、最低限の掃除や洗濯をし、たまったゴミを捨てた。

そんな義父母は2人とも、定年まで有名大企業に勤めていた。義母は度々「息子夫婦に迷惑をかけたくないから、いずれお父さんと施設に入るつもり」と言っていたため、2人の老後の備えに関しては心配していなかった。

同年10月。能登さん夫婦は、2人の認知症が進み、何もかもわからなくなってしまう前に、本人たちの意見を聞いておこうと思い立ち、話し合いの場を設けることに。

すると義母は、「そろそろお父さんと施設に入るわ」と言い出す。夫が場所や予算について訊ねると、「山のほうがいいわね」と義母。さらに夫が受給している年金額について訊ねると、「この家売りましょう、お父さん」と義母。

能登さん夫婦は、嫌な予感がして顔を見合わせる。そこで能登さんが、

「お義母さん。私たち夫婦は家を建てて、まだローンもたくさん残っていますし、これから子どもたちの教育費や、自分たちの老後の資金も貯めていかなければならず、余裕が全くありません。私たちは、施設に入る資金について気になっています。大丈夫か大丈夫じゃないかだけでも答えていただけませんか?」

義母は通帳を取り出して広げた。

おそるおそる覗き込むと、残高は10万円弱しかないうえに、700万円ほどの借金まで発覚。義父が60歳で退職したときに、かなりの額もらっていたはずの退職金は跡形もない。

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ゴミ屋敷の家は明太子と化粧品の山

「家を売って施設に入るわ」と義母は簡単に言うが、家の中はゴミ屋敷状態。しかも借金を抱えている状態では、義母がイメージしているホテルのような施設になど到底入れるはずがない。

最近、紛失や再発行が続いていたため、これを機に能登さん夫婦は義父母の通帳とキャッシュカードを預かることにした。「お願いします」と言って通帳とカード一式を差し出したはずの義母は、その日のうちに「通帳返せ!」「カード返せ!」と言い出し、以降、毎日のように「お金がない!」「5万円おろして持ってきて!」などと連絡が来た。

夫が何を買っているのか訊ねると、義母は「何も買ってない」の一点張り。

しかし、毎日義実家へ通っている能登さんには大方見当がついていた。義母は通販にハマっていたのだ。某有名メーカーの明太子や北海道のお取り寄せグルメ。通販番組でよく見るオールインワンクリームなどの化粧品が何個もあった。おそらく、年金生活になっても現役時代の生活水準が下げられず、気付いたら借金が膨らんでいたのだろう。