認知症なのに、頑として病院へ行かない義父母

能登さん夫婦は、2人に適切な介護サービスを受けてもらいたいと考えているが、家を訪ねれば居留守。電話をかけてもメールをしても無視。対面しても無言を貫くため、お手上げ状態だった。

義母はまだ症状が軽かったが、義父の病院でさえ面倒になるのか、義母が勝手に受診をキャンセルしてしまうため、義父の薬が尽きてしまうこともしばしば。能登さんと同業の夫は、「俺、介護の仕事を続ける自信をなくすくらい、うちの母さんヤバイわ」とこぼした。

悩んだ夫は、母親の古くからの友人や受診予定の病院の相談員に、万が一、母親が勝手に受診日の変更や中止をしようとした場合は、自分に連絡をしてもらえるようお願いした。

そして受診日。実家へ迎えに行くと、2人はいない。能登さん夫婦は各方面に謝罪の電話をし、息子を遊ばせながら待つこと1時間。何食わぬ顔で2人が帰ってきた。

それを見た夫はキレて、こう詰め寄った。

「どこ行ってたんだよ! 母さんたちのことでどれだけみんなに迷惑をかけてるか分かってるのか?」

ところが、暖簾に腕押しで、義母は朗らかに笑いながら「ね〜、こんな認知症のお父さんと忘れっぽいお母さんじゃ、千秋さんは本当に大変よね〜?」とまるでひとごとだ。

夫は溜息をつくしかなかった。

月をつかもうと伸ばした手
写真=iStock.com/Francisco Jose Garrido Angulo
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「これ以上はもう、千秋に迷惑かけられないから、離婚して実家に帰ってもらうことにしたよ……」

それを聞いた義母の顔は真っ青。

「何言ってるの? 離婚なんてダメよ! ねえ千秋さん、離婚なんてしなくたって大丈夫でしょう?」

「夫の気持ちを尊重して、離婚しようと思います…」

夫から何も聞かされていなかった能登さんは内心慌てたが、「夫の気持ちを尊重して、離婚しようと思います……」とすぐに話を合わせる。

「俺ら夫婦が真剣にお願いしてるのに、病院だけは絶対に行ってくれないよね? 治す努力もせず逃げてばかりで、そのあげく俺たちを巻き込むんだから、それなりの覚悟があるんだろ? 良くわかったよ。離婚なんて本意じゃないけど、千秋にこんな親の面倒を見させるわけにいかない!」

夫は真剣だ。

すると、義母はおどおどした表情で「私が病院へ行ったら離婚しないの?」と聞いてきた。

「病院なんて行くのが当たり前! 俺が千秋や子どもたちに迷惑がかかると判断したら離婚だ。俺は苦労させるために千秋と結婚したんじゃないんだよ!」

ようやく義両親は病院を受診。義母はまだ軽度だが、2人はアルツハイマー型認知症と診断された。