手取りはたったの10万円

4カ月間の勤務で客を呼べた回数はわずか3回。1カ月に1本あるかないかだ。そのうち1人は弾き語りをしていたら知り合い、来店してくれた客である。

売り上げはほぼゼロなので、給料は基本給だけだ。2020年1月の給与明細を見せてもらった。基本給与は17万円ほど。そこから4万円の寮費と、5000円の交際費(グループのレクリエーション時の積立金)と厚生費、遅刻罰金を引かれ、手取りは10万円ほど。後述するように、ホストの契約は「個人事業主」であるため、ここから所得税と社会保険を支払わなければいけない。

ホストクラブにおける「厚生費」とは何なのか。疑問に思って聞くと、「僕も具体的には知らないです。気にならないと言えばうそになるんですけど。気にしなくなるほど稼げばいいんじゃないか! っていう発想転換してます」と言う。細かいことは気にしない性格のようだ。

指名をもらえないホストは店の掃除をすることになっている。だいたいの日が掃除組のAさんは17時半から店に出勤し、店の掃除をする。店が終わるのは25時。単純計算で営業日の24日間7.5時間労働すると、180時間は月に働いていることとなる。時給換算で555円。東京都の最低賃金の約半分しかもらっていないのだ。

「やっぱり、ホストをする上で身なりには気を使います。それは上司にも言われました。なので、毎月1万円ほどは服や靴に使っています。そこから家の借金返済に月5万円。アフターといって、お客の女の子に店の外でご飯をおごる分が月に2万円。残りを生活費に回しているので、貯金はほとんどありません。たまに弾き語りをしていると数百円~千円ほどのチップをくれる人もいるので、それを含めてなんとか生活しています」

給料日前は小麦粉を水でこねて焼いたものを食べる

主食は2kg800円の格安米。給料日前はほとんどお金がなく、小麦粉を水でこねて焼いて食べたり、白米にソースをかけたりしているという。

Aさんのある日の食事。たまのぜいたくはフレンチトーストや目玉焼きだ。

「ホストの先輩にご飯に連れて行ってもらうのも苦手で。結果も出してないし、元をたどればお客の女の子が頑張ってつぎ込んだお金なので、僕に使ってもらっていいのかって……。」

これほど貧乏にもかかわらず、なぜ積極的に営業活動をしないのか。Aさんは、「ホスト=貢がせるみたいなイメージが強いじゃないですか。それが嫌で。来たいときにふらっと来てほしいんです。懐に余裕があるけど心に余裕がない。そんな人のストレス発散の1つとして使ってもらえればと思っています」と言う。

私はホスト遊びが好きだ。ホストクラブに通うのは、キラキラしている担当ホストの姿を見たいからである。彼のような、路上で簡単に会えてしまうホストには、「会うためのお金」は必要ない。ホストクラブの箱という特殊な環境で、よほど工夫を凝らしてお金を使う楽しさを提供しないと、彼は「無料で会えるラッキーなホスト」として認識されるだけにとどまるのではないかなと感じた。