それでは、なぜ6万円なのか。担当者は「ひとつの考え方」として東京都の例を持ち出してきた。

「東京都の飲食店の場合だが、約8万事業所がある。その売上高の一日平均は約15万円となっています。家賃や光熱費などで約3割、4.5万円程度です。差し引き10.5万円。そこから従業員の人件費、食材の仕入れ代金を差し引く。それに店の利益も見込んで出てきた数字です」

つまり東京都の飲食店全体の平均売上とコストを元に、机上の計算で一律最大6万円が決まったことになる。そして東京都をモデルとして他県もすべて6万円になっているのだ。

東京大学大学院経済学研究科の肥後雅博教授は「この金額、国の『経済センサス』の『付加価値額』とほぼ一致している」と指摘する。

飲食店の実態は「付加価値額」で把握できる

経済センサスとは、2009年から始まった比較的新しい調査で、全産業分野の売上(収入)金額や費用などの経理項目を同一時点で網羅的に把握し、我が国における事業所・企業の経済活動を全国的及び地域別に明らかにすることを目的とした調査である。

写真=時事通信フォト
飲食店に掲示された時短営業を伝える張り紙。この日から福岡県内で飲食店への営業時間短縮の要請が始まった=2021年1月16日夜、福岡市中央区

対象は工場や飲食店、個人事務所まですべて網羅して行われる。全国的及び地域別に経済実態が明らかになるのだが、この統計の中に「付加価値額」という項目がある。

付加価値額とは、企業等の生産活動によって新たに生み出された価値のことで、GNP(国内総生産)の元になっているものだ。生産額から原材料等の中間投入額を差し引くことによって算出される。

飲食店の「付加価値」とは、飲食というサービスを提供することによって新たに作り出される価値のことをいう。売上高から、原材料費や販売管理費から構成される費用総額を差し引いて算出される数字だ(人件費、税金除く)。

付加価値額=売上高-費用総額+給与総額+租税公課

この指標をもとに、都道府県別の飲食店の1店舗1日当たりの付加価値額を算出すると、次のようになる。

1店舗1日当たりの付加価値額
東京都 5.9万円
神奈川県 4.8万円
大阪府 3.7万円
兵庫県 3.4万円
岐阜県 2.7万円

(協力:肥後雅博:東京大学大学院経済学研究科教授)

東京以外は貰いすぎ……協力金をめぐるモラルハザードの芽

東京都の付加価値額は約6万円だが、ほかの都道府県は東京都を下回っている。岐阜県は東京の半分以下であり、一律協力金6万円は「貰いすぎ」ともいえる。

営業時間の短縮に応じる飲食店への協力金は、都道府県が出している。このうち8割は国の負担分とされていたが、それでも地方自治体の負担が大きくなっているため、過去にさかのぼって、地方2割の部分も国が負担するように、この3月に仕組みを変えた。第3次補正予算に計上された「地方創生臨時交付金」という枠組みだ。