税金のムダ遣いだったBSEの全頭検査
BSEというのは、牛の病気のひとつで、BSEプリオンと呼ばれる病原体に感染した牛の脳がスポンジ状になり、異常行動、運動失調などを示し、最後は死に至るというものです。
日本でこのBSEが発生したのは2001年9月のことでしたが、その際、日本政府は全頭検査を実施します。
全頭検査と聞くと、すべての牛の検査をすることで、安全が保障され、安心して牛を食べることができる、そうイメージするかもしれません。しかし、実際はまったく違います。
BSEは生後半年から1年ごろにBSEプリオンを含むエサを食べて感染するとされ、腸から脊髄を経て、脳にたどり着くまで3年程度かかります。そのため、30カ月齢以前の牛の脳を検査しても、プリオンを検出はできません。それなのに、若い牛も含めすべての牛を検査すれば「安心だろう」ということで検査をしていたのです。
無駄だということは、厚生労働省、農林水産省もわかっていたにもかかわらず、そこに何十億もの税金をかけたのです。
「安全」よりも「安心」が優先される現状
わたしは、このとき、日本の中で、「安全と安心」がまったく混同されてしまったのではないかと思っています。
メディアは、BSEに感染した人は1人も出なかったにもかかわらず、バタバタと倒れる牛の映像を繰り返し流すことで人々のパニックをあおりました。
そうしたマスメディアの報道によって過熱した国民の不安をやわらげ、「安心」させるために、政府は科学的には根拠がない全頭検査を行った。つまり、「安心」の確保のための施策をとったということです。
本来、「安全」だからこそ「安心」できるのに、「安全」よりも「安心」が優先される。BSE問題はその契機になったのではないかと思っています。
「全頭検査=安心」論がかき消した科学的真実
では、どうすればよかったか。狂牛病の原因であるBSEプリオンは牛の腸から入り脊髄を通り、脳にたまります。そのため、科学的根拠に基づいた対策としては、プリオンがたまるところ、つまり脊髄をはじめとするそれらの「特定部位」の除去を徹底すればいいのです。
しかし、その説明は「全頭検査=安心」論によってかき消されてしまいました。
そのため、その2年後にアメリカでBSEが発生した際も、日本はアメリカ側へ全頭検査をするよう申し入れました。ところが、アメリカは、無意味なことに税金を投入するはずもなく、全頭検査に同意をしませんでした。
その結果、輸入再開交渉はこじれ米国からの牛肉が3年半もの間、入ってこなかったのです。