私は、武田が『クロ現+』のキャスターになる時、会見で政治との距離について聞かれ、「フェアであること。情報が世の中をよくすることに資するかの一点を大切にしたい。多様な見方を提示して民主主義を機能させるため、『こんな見方もある』と政治家にぶつけないといけない」(川本裕司『変容するNHK 「忖度」とモラル崩壊の現場』花伝社)と語ったことが響いているのではないかと思う。

NHKに多様な見方、考え方は必要ない。安倍官邸の強い意志で会長に祭り上げられた籾井勝人が会見でいい放ったように、「政府が右といっているものを、われわれが左というわけにはいかない」のがNHKなのだ。

NHK放送ガイドライン」には「自主・自律の堅持」がうたわれているが、首脳陣は読んだことがないのであろう。

五輪開催の是非を問う『Nスぺ』にも圧力か

週刊新潮(2/25日号)によれば、NHKの看板番組『NHKスペシャル』でも、放送直前にエライサンの鶴のひと声で延期という事態が起きていたという。

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1月15日、五輪開催の半年前にあたる1月24日放送予定の『令和未来会議 どうする? 何のため? 今こそ問う 東京オリンピック・パラリンピック』の打ち合わせに、チーフプロデューサーがいつまでたっても現れなかったというのだ。

「実はその裏で、NHKスペシャルを管轄する放送総局大型企画開発センター幹部と、正籬まさがき聡副会長兼放送総局長の会談が行われていたんです。そこでは放送延期について話し合われ、当日中に現場に伝えられました」(NHK中堅職員)

正籬は政治部出身で全放送に責任を持つが、トップが口出しするのは異例中の異例で、労組が問題視して経営陣に説明を求めたそうだ。

説明によると、コロナで世論の不安が高まる中だから、タイミングが悪いというものだったが、番組内での討論で、五輪止めるべしという意見が多く表明されれば、どうしても開催したい官邸や組織委の不興を買うことになるので、正籬が忖度して延期したといわれているそうである。

ここでも忖度が幅を利かせている。いっそのこと忖度放送局とでも変更したらどうか。

いうまでもないことだが、NHKは予算や事業計画を国会で承認されなければならないし、会長の任免権を握る12人の経営委員は国会の同意を得て首相が任命するから、政治的な圧力がかかりやすい。