「ワクチン接種のシステム」でも不手際が起きていた

実は、新型コロナ・ワクチンの接種を管理するシステムの開発でも、厚労省の不手際が明らかになってきた。

厚労省は2020年夏からワクチンを届けるためのシステム開発に乗り出し、「ワクチン接種円滑化システム(略称「V-SYS」=ヴイシス)」の準備を進めてきた。7月には入札が行われ、NECが落札した。システム作成に向けての調査や設計は野村総合研究所(NRI)が担当した。

ところが、このV-SYS、調達したワクチンを自治体の医療機関や接種会場に公平に配分するためのシステムで、いつ、誰に接種したかを記録することは想定していなかった。ワクチンの接種状況を日々把握したい菅内閣からすれば、ワクチンを届けて終わり、では話にならない。厚労省は従来の予防接種と同じく、自治体が接種を担当し、自治体が持つ「予防接種台帳」に記録すれば、接種情報は把握できると考えたのだ。

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自治体の予防接種台帳はほとんどの自治体でここ数年の間にデジタル化が進んだが、医療機関で接種した記録を自治体に報告するのはいまだに「紙」で、月に1回回収したその紙を、業者に委託して入力している。つまり、予防接種台帳に記録が更新されるのに2~3カ月かかる。ファイザーのワクチンは2回打つ必要があるが、その間に引っ越した場合、把握できない。今後、国際間の移動をする場合にワクチン接種証明の携帯が義務付けられる可能性があるが、その発行に3カ月もかかっていたのでは、使いものにならない。

ワクチン先行接種の記録も「紙」

年末になってそれが分かった首相官邸は大騒ぎになったという。1月中旬に河野太郎・行革担当相がワクチン担当相に任命されたのもそのシステム問題が大きかった。河野大臣は就任早々、V-SYSとは別にクラウドを活用した「ナショナル・データベース」のシステム開発に乗り出した。

ここでも、厚労省の姿勢が問題になった。V-SYSの開発について、どうやら政府CIOやIT室に何の情報も上げていなかったようなのだ。担当の現場だけで進めて、厚労省CIOにすら情報が伝わっていなかったという指摘もある。また、河野チームが発足した後も、V-SYSの改修について徹底抗戦するばかりか、V-SYSの詳しいシステムの内容について、一切情報を提供しなかったとされる。河野チームがV-SYSの詳細な情報を知ったのは大臣就任から1カ月近くたってからのことだ。

2月17日、国立医療機関など100施設で4万人の医療関係者を対象とするワクチンの先行接種が始まった。うち2万人については詳細な記録を毎日付けることになっているが、その調査票がまたしても「紙」だという。医療機関で取りまとめて厚労省に送り、それを業者に発注して入力作業を行うそうだ。簡単なアプリを作ってスマートフォンから入力すれば、日々データが更新できそうだが、その結果がまとまるのも数カ月後になるのだろう。

この国のデジタル化の道のりは遠い。

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