日本人が驚嘆、「イギリスのマスク不要論」の中身
イギリスでは2020年4月、第3週目に入った頃から、朝の民放のワイドショーでマスクを着用するべきかどうかということが議論されるようになりました。
この週に放送された民放ITVの「Good Morning Britain(GMB)」という番組では、保守系のコラムニストであるピアーズ・モーガン氏が、スタジオにリモートで招待されたトップクラスの専門家たちとマスクに関する議論を繰り広げました。
モーガン氏は当初より政府の新型コロナ対策がゆるすぎると怒っているひとりで、「東アジアではみんな、マスクを普通につけていて死者が少ないのだから、イギリス政府も国民にマスクをつけるように指示するべきじゃないか」と、かなり怒った調子で伝えていました。
ところが番組に出演していた専門家たちの回答は次のようなもので、日本の感覚からすると大変驚くべきものでした。
・イギリス国民はマスクの使い方を知らないから使わせるべきではない
・マスクをしたら手洗いをしなかったり、外出自粛を守らなかったりするから、かえって危険だ
・そもそも、マスクに予防効果があるというデータがない
彼らは、このようなあきれた理由を繰り返すばかりだったのです。日本人にとっては驚くべきことですが、彼らの意見は2020年の初めからまったく変わっておらず、一貫しています。ほかの医師や感染症の専門家も同じです。
彼らがなぜ、こんな回答をするかというと、イギリス政府のマスクに対する方針がWHOのガイドラインに沿っているからです。当時、WHOは「健康な人がマスクを着用しても感染を予防できる根拠はない」と述べていました。2020年6月、WHOはこの見解を改め、「他人に感染させないためにもマスク着用を推奨する」としましたが、当時のイギリスではWHOのガイドラインを受け、「マスクは不要だ」とする人が大多数でした。
「防止策のマスクは必要ない」という超自己チュー
感染拡大が深刻化していた四月ごろ、私は家の近所を少し散歩するぐらいしか外出しませんでしたが、マスクをつけている人はアフリカ系、インド系、中華系、若い白人カップルくらいで、中年以上の白人がマスクをつけている様子はほとんど見かけませんでした。
スーパーの店内では子どもを連れた親がマスクをせずに、みんなでベラベラとおしゃべりをしていました。レジ横やセルフレジでは行列ができていて、「3密」状態は当たり前。ソーシャルディスタンスはほとんど無視されていました。
そもそも、彼らはマスクに対して大変な抵抗があるのです。なぜかというと、イギリスをはじめ欧州では、「マスクをする人=異常な病気にかかった人」というイメージがあるからです。「マスクは一風変わった東洋の習慣」どころか、「マスクをしている人間は、はっきりいって頭がおかしい」という感じです。
これまでも、空港や街中でマスクをつける日本人や中国人は、一定数のイギリス人のあいだで笑いのネタにされていました。東洋にはそういう習慣があると知っている人も多いのですが、それでも「マスクをすると表情が見えず、気色が悪い」ので、「科学的ではない馬鹿げたことをする東洋人はやっぱり未開地の人間だね」というのが彼らの本音です。
そんな調子なので、どれだけ新型コロナが蔓延してもマスクについて誰も真剣に考えていませんでした。そもそも「他人にうつさないためにマスクを身につけたほうがよい」など、考えもつきませんでした。基本的に彼らは超自己チューなので、他人がどうなろうと知ったこっちゃないのです。
また、「風邪をひけば診断書をもらってさっさと休む」というのが、彼らの普段のスタイルです。だから、「病気の人間は職場に来るな」というのが当たり前で、防止策のマスクはそもそも必要ないと考えられていたのです。