「セックス=支配」になっていないか

【村瀬】実は私も時間がかかっているんです。自分がエロ本などで仕入れたセックス観や女性観が、間違っていただけでなく、私にとっても女性にとってもマイナスでしかないということに気がついたのは、随分大人になってからのことでした。

そして妻もまた、女性の体や性のことだけでなく、男性の体や性、パートナーとの関係の作り方など、知らずに大人になったと言っていました。無知で無理解な男女が一緒に暮らしていけるはずがないと気がついたところから、学びが始まりました。

村瀬幸浩さん(撮影=プレジデントウーマン編集部)

【太田】マイナスの知識、誤った学びとは、例えばどんなことでしょうか。

【村瀬】基本的に、性には3つの側面があります。「生殖」と「快楽・共生」と「支配」です。

AV(アダルトビデオ)の表現は、まず「支配」の性ばかりなので、男は「それがセックスなのだ」と誤って学んでしまうんです。性欲と支配欲を、結び付けて理解してしまう。

さらには、「支配」と「愛」を混同してしまうこともある。「愛しているからセックスさせてくれ」と言われれば、女性は断れなくなってしまいますよね。でも、セックスをすることが愛の証しなのではありません。

男性の場合は、愛を表現する言葉やしぐさ、伝え方を学んでいないから、愛といえばセックスしか思い浮かばないんです。ところがそれは、女性にとっては愛情を伝えるメッセージではなく、ただ「オレの言うことを聞け」という支配の表れになってしまうことがあります。それでは、男女の関係性はよくなりませんよね。

支配ではない愛の表現を学ぶ機会がなかった人は、どうすれば相手に伝わるのか、相手にたずねながら別の表現方法を学び直してほしいんです。

「女性に性的快楽を“与える”のは男性」というファンタジー

【太田】「支配」の性しか知らないままで、相手に対して支配的になることで相手に快楽を与えていると思い込んでしまう。そして、それに快楽を感じたり、それを愛だと思い込んでいる人もいますよね。

【村瀬】快楽には、体の気持ちよさと心の気持ちよさの2つがあります。相手とのコミュニケーションを通じて喜びを分かち合える性行為なら、安心感や一体感を得られ、心の気持ちよさを感じることができます。

日本でも、江戸時代に描かれた春画などを見ると、とても開放的で、男女ともに快楽を楽しんでいた様子がうかがえます。嫌がっている女性を無理に組み敷くようなものは少ない。庶民から武家まで幅広く親しまれ、子孫繁栄の縁起物とまで言われていました。もちろん、それだけで江戸時代の性を論じてはいけませんが。

【太田】春画には、女性が主体的に楽しんでいる描写も多いですよね。

【村瀬】そうなんです。ところが、明治時代になると政府は、「性に関することは卑猥なもの」として春画を取り締まるようになりました。

そして大日本帝国憲法のもとで家父長制度や男尊女卑の考え方が広められたのです。大正になるとキリスト教の影響で、純愛や処女の絶対性など、純潔こそ価値のあるものだとされるようになりました。

【太田】「女性に性的快楽を与えてあげるのは男性の役割」というファンタジーの刷り込みもあると思うんですよね。「何も知らない無垢な女性を自分が開眼させる」とか、逆に「年上のセクシーな熟女に導かれたい」とか。ファンタジーとはいえ、どちらも極端というか、全く対等な関係ではないのが気になります。