フロイトが説いた女性の「ペニス羨望」

【村瀬】1960年から1970年代のジェンダー革命以前は、ヨーロッパでもエロスの主役は男性で、女はそれに従うものだとされていました。例えば、精神分析学の創始者として知られるフロイト(1856-1939)は、「クリトリスによる女性の快感は子どものもので未熟だ。成熟した女の快感はヴァギナオーガズムだ」と述べています。

【太田】女性の声を聞かずに、ただ「そうであってほしい」と思っていたのでしょうか。なぜそんなにクリトリスを敵視するんでしょうね(笑)。

【村瀬】ヴァギナオーガズムは、男がいて初めて成り立つものだからです。男性のペニスを挿入しないとオーガズムは生まれないという主張、というか押し付けです。「女はペニスがないという“欠損”を、男に対する屈辱と感じ、男への羨望を自覚する」。つまり女の子は、男の子のようなペニスがないことに気がつくと、「男の子のようにペニスを持ちたい、自分の中に獲得したい」と思うようになるのだとフロイトは述べていました。

しかし近年では、女性の学者たちが、ペニス羨望とヴァギナオーガズムを徹底的に批判し、女性のオーガズムについて論じた論文をたくさん出すようになりました。これまで科学的に正しいとされてきたことも、変わっていくと思いますよ。

AVで「学んだ」セックスで思い悩む男性

【太田】「男性がオーガズムに達するのがセックスのゴールだ」と思われているのは、そういうことも関係しているのでしょうか。「なぜそこが『ゴール』なのか。私の『ゴール』はまだなんだけど……」という女性は多いと思いますよ。それから、「オーガズムをゴールにするのではなく、ただハグをしてスキンシップをするだけでいい」という女性も多いと思います。男性には、そこがなかなか共有されないこともありそうです。

太田啓子さん(撮影=プレジデントウーマン編集部)

男性向けとされるAVは、セックスに至るまでのコミュニケーションが丁寧に描かれているものが少ないのではないでしょうか。「コミュニケーションが乏しく、女性の主体性や同意を軽視するセックスは、『AVというファンタジー』の中では女性にとっても快楽であるかのように見えているけれど、現実世界ではただの『支配としての性』という暴力でしかない」ということを、もっと知ってほしいのですが。

【村瀬】AVは、「出会ったらすぐに挿入して、激しくピストン運動して女性をいかせて、射精して終わり」というものが多い。AVでセックスを学んだ男性たちは、それに縛られて苦しむわけです。勃起しないとダメ、挿入しないとダメ、女性をオーガズムに達させなくてはいけないと必死になる男性は多いですよね。

残念ながら、それが「男らしいセックス」で、女性を支配するというシチュエーションが圧倒的に多いので、性に関心を持ち始めた若者が、何もわからないままこうしたAVを手に取って、ゆがんだセックスを「学んで」しまうのは大問題ですね。