「もう1人産めるかな」と思えるフランス

かくいう筆者はフランスで男児を2人産み、親子4人で暮らしている。中学生と小学生を生かし続けていくだけでも、お金は日々湯水のように消えていく。服はあっという間にサイズアウトし、靴は数カ月でボロボロになる。パスタは500gパックが1食で消え、これから先を考えるとゾッとする毎日だ。仏調査研究政策評価統計局が2015年に公開した資料によると、子どものいるカップル世帯の年間の生活費は、子どものいないカップルのそれより約8400ユーロ(約105万円)ほど高くなっているそうだ。

しかし私自身が子育てを長期的に考えて、お金が「かかりすぎる」という実感は、正直言って薄い。フランスの公立校は大学まで無償で、調理や美容、工業などの職業専門校も、公立校であれば学費はかからない。塾通いの文化はなく、習い事は自治体や非営利団体の運営が主流で、かかっても年間数万円程度だ。

妊娠確定から分娩までの医療費も無償化されているので、1人目の時も2人目の時も、費用の不安から「産むかどうか」を迷ったことはなかった。しかもフランスの所得税は、子どもが増えるほど世帯への掛け率が低くなる仕組みで、「産んだら税金がおトクになる」とのイメージすらあった。出産後には国から受給できる手当金が数種類あり、ほっと胸をなで下ろしてこう思った。これなら育てていけるだろう、もう1人産めるかな、と。

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「お金を理由に子どもを諦める」ことは少ない

そしてこれは私の個人的な感覚ではなく、社会に共通しているものだ。

フランスにも日本と同様に、理想とする子どもの数の調査結果がある(2013年)。平均数は2.4、同じ年の合計特殊出生率は1.99だった。理想と現実に開きはあるが、その幅は日本よりずっと小さく、この差の小ささは欧州でもトップクラスだという。理想の数を持たない理由は、「今から産むには高齢すぎると感じたから」が全体の33%で第1位、「お金がかかりすぎるから」は「住居が狭すぎるから」と並んで2位だったが、どちらも答えた人は全体の28%だった。

フランスだって、子育てはお金がかかる。が、それが原因で子を諦める人々は、多数派ではない。子どもがいても金銭的に詰まない、なんとかなる、との認識が一般的なのだ。

「お金がかかりすぎるから」と、子どもを諦める人々の割合が、日本は8割、フランスは3割弱。この両国の違いは、どこから来ているのだろう。同じ21世期の資本主義先進国、G7に名を連ねる国同士で、子どもをめぐる経済感覚にこれだけの差が出る背景には、何があるのだろうか。