子育て支援は「社会の制度を持続するため」に必要
「フランスの家族手当にはもう一つ、重要な原則があります。家族手当は国の社会保障制度に含まれ、それは縦・横二つの軸で分配すべし、というものです」
社会保障制度とは、国民の日常生活で起こるリスクを社会全体でカバーし、生活をより安定させるための仕組みだ。制度の中には、病気やけがなど健康リスクに対する医療保険や介護保険、失業リスクに対する雇用保険などがある。そのリスクはいつ誰に訪れるか分からないから、現時点では順風満帆な人も、制度を維持するために保険料を払う。経済的に余裕のある人がそうでない人より多めに保険料を払うのが「縦軸の分配」で、現時点でリスクのない・少ない人も多い人とともに担うのが「横軸の分配」だ。
フランスの家族手当は保険制度ではないが、支援の考え方の基盤には、このようなリスクと分配の考え方がある。
「フランスでは子育てにかかる費用は、社会でカバーされるべきリスクと考えられています。年間で100万円以上の追加費用が発生する案件は、その世帯には間違いなく、日常生活の安定を脅かすリスクです。しかもその案件は、国の社会保障制度全体を維持・継続していくために、誰かが背負わなくてはならない。そのリスクを背負う人を社会全体で助けるのは当然と、フランス市民は理解しています。子どもを持たない人も子育てを終えた人も、みんなで、です」
子を持ち育てる人が「世代を更新」するから、社会の制度を持続させることができる。その認識が明確に共有されているため、フランスでは国が子育て支援に大きな支出を割くことに、異論を挟む声はないそうだ。それはフランスという国にとって、その国民の生きる社会にとって、当たり前に必要な役割分担だから、と。
「高所得層への給付額減額」で起きた大ブーイング
そんなフランスでも、子ども手当を縮小方向に改正したことがある。2015年、それまで2人以上の子どもを持つ全世帯に所得制限なく同基準で給付されていた手当を、高所得者には給付額を減らす形にし(給付自体はある)、節約できた分を保育所整備資金に充てる方策が取られた。共働きが多い富裕層は月数万円の手当金より、良質の保育所を増やした方が支援として実効性が高いだろう、との判断だ。
しかしその改正は子育ての当事者・支援団体に大ブーイングを呼び、2015年よりフランスの合計特殊出生率が微減少傾向に転じたことの原因とまで言われている。
「その因果関係を立証する十分な要素はない、誤った議論だ」とルプランスさんは否定するが、それだけ国が家族政策にお金をかけることへの社会的合意が強い、とも言える現象だろう。
子ども手当に代表されるフランスの家族政策は毎年検証・分析が繰り返され、国民の生活の変化へも迅速に対応し、こまめな微調整がなされている。新型コロナの感染拡大に伴う社会不安の増大にも、数々の手が打たれた。そのダイナミズムは、家族支援が国家運営の重要事項であるという、国民の共通認識に支えられている。そしてその共通認識が、一つひとつの家族と、そこで生きる子どもたちの助けとなっている。