ハイブリッド車にこだわれば、日本市場はガラパゴス化する

一方のトヨタはどうか。

菅義偉首相が政権発足後に打ち出した「カーボンニュートラル(脱炭素)」戦略。温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにするという方針が打ち出される中、自動車分野でも、2030年代半ばにはガソリン車の新車販売を禁止するとの原案が浮上していた。

当然、国内新車販売市場の約半分のシェアを占めるトヨタは即座に反応した。「販売が禁止されるガソリン車の中にHV車は除外するようにしろ」との指令が豊田章男社長から飛んだ。

トヨタ幹部は所管する経済産業省や自民党に日参した。その結果、なんとかHV車は対象外となった。だが、それで安心してはいられない。

大手証券アナリストは、「HV大国の日本でトヨタが“既得権益”を維持しようとすればするほど、日本市場はガラパゴス化する」と指摘する。

かつてスマホでNTTの「iモード」がたどった道だ。

トヨタにとっても、一気にEV化が進めばエンジンやトランスミッション(変速機)の開発や生産に携わる社員や下請けメーカーの雇用に関わってくる。

有線通信時代の「交換機」にこだわって出遅れたNTTの教訓

かつてNTTはインターネットが日本に入ってきた際に今のトヨタと同様の悩みを抱えていた。当時、通信は有線の時代で、NTTは光ファイバーの全国への敷設を経営の最優先課題においていた。しかし、今のスマホに象徴される無線による通信がインターネットの到来で普及するにつれ、有線時代の「交換機」が不要になってきた。

交換機の開発・生産にはNTTグループ以外にもNECや富士通、沖電気(現OKI)といった「旧電電ファミリー」が関わっている。当時、NTTには「ネットの普及で交換機をサーバーやルーターに置き換えたら、交換機生産に関わっている数十万人の雇用が吹き飛んでしまう」(NTT幹部)との懸念があった。

NTTが光ファイバーの敷設にこだわる中、間隙を突いたのがソフトバンクだ。

駅前で「ヤフーBB」のモデムを無料で配布、会員同士の通話も無料にした。固定料金も初めて導入、顧客を抱え込んでいった。その後、ソフトバンク創業者の孫正義氏と個人的につながりのあるアップルのスティーブ・ジョブズ氏(故人)を通じて、iPhoneの日本での独占販売にこぎ着けた。

日本のネット社会の普及を見越したソフトバンクの怒とうの攻勢の前に身動きのとれないNTTは劣勢に立ち、今や国内スマホ市場でも収益力ではソフトバンクやKDDIに劣後する。