飲み屋で老婆がポケットから取り出したものは…
「んで、兄ちゃん何が知りたい?」
「シャブの売人をこの目で見てみたいです。それらしき人はいるけどブツを見たことがない」
「そんなやつその辺にいっぱいおるで。そしたら俺のお得意先を少し紹介したるからちょいと付いてきいや。ここだけの話、今でも少しだけやってんねん。毎日じゃないで、たまにだけやで」
そう言うとかっちゃんは四角公園の近くにある居酒屋オンドルへと向かったのだった。
「おお、姉さん。ハンさんは?」
「おお久しぶりやなあ」
ハンさんというのは以前かっちゃんが刑務所で一緒だった人物らしい。姉さんはその知り合いで、オンドルの常連客である。
「いま持っとるの? ネタ」
「あるよ」
そう言うと姉さんはポケットからスッと、白い粉が入ったパケをチラリと見せた。
「シャブの売人ってのはな、男よりもああいう普通のばあさんが多いねん。警察にとってはあんなババア盲点やし、感情消していろいろできるからな、捕まりにくいねん。なによりあのババアの肝が据わっとる」
シャブ屋はどのように覚せい剤を売っているのか
動物園前駅を出て阪堺線の線路を渡ると、左手にあいりん地区の入り口がある。ローソンの横を通り、しばらく行ったところに何年か前につぶれた店舗が、シャッターが下りたままになっている。その店の前には3人の男がローテーションで常に座っている(2021年現在はいない)。携帯を見たり漫画を読んだり、本当にただ座り続けているだけ。しかしこのグループはこの一帯では誰もが知るシャブ屋である。
「あの店の前にいるシャブ屋おるやろ。俺昔あいつと一緒にシャブ捌いとったんや。ちょっと聞いときや」
かっちゃんが少し周りを気にしながら売人に近づいていく。今いるのは柄入りのスエットを着ている40代くらいの角刈りの男。もう一人は肥満体形の歯の抜けた男で、あとは釣り用のチョッキを着た70代くらいの男だ。
「兄さん、久しぶりやな。覚えてまっか?」
「おう」
「売れてまっか?」
「いや」
「オレも金があればシャブいきたいけどなあ」
「……」
角刈り男は買う気がないなら早くどこかへ消えろといった様子だ。かっちゃんの後ろにいる私のこともチラチラと見ている。角刈り男のように街に立っている「立ちんぼ」がネタを持ち歩くようなことはない(オンドルのババアは例外)。「立ちんぼ」に告げられた場所で、また別の人間と待ち合わせをし、そこで受け取ることが多いという。