覚せい剤で前科9犯の青山さんは、居場所を探そうと懸命にしゃべった

「國やんちょっとコンビニ行かへん? なあ一緒に行こうや。肉まん食いたいんや。國やん明日で終わりやったけ? 前借りしてないっちゅうことは6万くらい入るってことやな。ちょっとトイレ行ってくるからそこで待っといてや」

新人の私なら気を遣わずに話し相手になれるということもあるだろうが、雇われ先のS建設でも力のある坂本さんにかわいがられている私と仲良くしておけば、自分の居場所が確保できる、といったところだろう。常に頭の中に不安がグルグルと巡り、それを払拭ふっしょくするために無理にでもしゃべり続けているという感じだ。

「青山アイツ大丈夫か?」と坂本さんが川端さんと大口さんに聞いている。青山さんと2人は以前、別の飯場で一緒に働いていたことがあるらしい。

「青山はシャブで最近まで刑務所入っとったで。前科9犯やて、今でもやっとるんちゃうか」

そういう大口さんも現在進行形でどっぷりとシャブに漬かっている前科者だ。もはやシャブ未経験の人間を探す方が難しい。シャブを打ったことのない自分がなんだかとても幼いように思えてくる。「川端はな、昔中央郵便局を襲撃して一億七千万を奪ったんやで。銀行じゃなく郵便局っちゅうところがプロやろ。ウヒヒ」というのは坂本さんのジョークだとしても、郵便局くらい襲っていてもなんら不思議ではない。

飯場は市橋達也のように指名手配犯が潜伏するような場所なのだから、前科者なんかウジャウジャいるのだ。S建設にもよく警察が踏み込んでくることがあるらしい。そして時には逮捕状が出ているやつなんかも混じっており、そのままパクられてしまうらしい。

シャブ中は「物事の優先順位が全部シャブ」

「青山がまた捕まるのも、もう時間の問題やろ。あそこまでいくとな、物事の優先順位が全部シャブになってしまうんや。もう頭の中シャブだらけやで。見てれば分かる」と坂本さんが確信を持った顔でうなずく。あんなただの白い粉に人生を翻弄ほんろうされて刑務所に9回も入り、いまだに取りつかれている青山さんがとてもみじめに思えてきた。

飯場を出た私は、ドヤの清掃員として働きながら西成の街を毎日のようにうろついていた。南海電車の高架下では、土日の朝になると闇市が開かれる。無修正のAVや、違法で売られている睡眠薬や向精神薬を手に取り眺めていると、遠くで見慣れた顔が「國やん!」と呼んでいる。シャブ中の青山さんだ。

朝の闇市では睡眠薬、向精神薬、インスリンなどが違法に売られていた
筆者撮影
朝の闇市では睡眠薬、向精神薬、インスリンなどが違法に売られていた

「國やん元気か、坂本さんに聞いたんやけどお前本書くんやってなぁ。なあいつ発売なん? 俺にも送ってくれや。あと西成の本書くっちゅうんなら、このかっちゃんを忘れてはいかん。あ、俺のこと今日からかっちゃんって呼んでくれな。なあ國やん」

20代前半で京都の暴力団に入り、西成でもB会に属した青山さん改めかっちゃん。B会はシャブの密売をシノギの中心としており、かっちゃんもかつてはシャブの売人としてこの街で生きてきた。しかし刑務所に入ること9回、地元では周りの目もありドカタなどできず、S建設にやってきたというわけ。

飯場の食堂で夕飯を食べるかっちゃん(右)
筆者撮影
飯場の食堂で夕飯を食べるかっちゃん(右)