薬物汚染を防ぐため、マスコミはどんな役割を担うべきか。元厚労省麻薬取締官の瀬戸晴海氏は「芸能人の薬物事件は大きなニュースになる。しかし、報道でクローズアップされるのは芸能人個人の私生活であることが多い。もっと薬物問題の本質に迫ってほしい」という——。

薬物は「魔性のウイルス」

——瀬戸さんは、初の著書『マトリ 厚労省麻薬取締官』(新潮新書)では、薬物を「魔性のウイルス」と例えています。どういう意味なのですか。

止めたくても止められない「依存性」という症状が、乱用薬物の最大の特徴なのです。薬物を使い続けると、個人差はあるにせよ、薬物が欲しくてたまらなくなり、自分自身をコントロールできない状態に陥ります。私は、この性質(依存性)を「魔性」と例えたわけです。

元厚労省麻薬取締官の瀬戸晴海氏
元関東信越厚生局麻薬取締部部長の瀬戸晴海氏(写真撮影=渡邉茂樹)

そして、人が人に勧めて蔓延してゆく。宣伝などしなくても売れる。例えるならウイルスが飛散するように蔓延していく。かつて一時期の「危険ドラッグ」の大流行を思い出していただければ理解できるかと。

——薬物汚染はすでに「パンデミック」の状態なのでしょうか。

2012~15年にかけて、世界レベルで「危険ドラッグ」が爆発的に蔓延しました。とりわけ2014年は大変な一年でした。

日本国内の推定使用者数が40万人に上り、同年だけで112人も危険ドラッグが起因して死亡しております。池袋や福岡の天神では乱用者による自動車暴走事故が起き、その交通事故で4人が亡くなりました。

検挙者は多くが初犯で897人(うち乱用者が631人)と、前年の約5倍にもなりました。まさに異常事態として「パンデミック」と言えるのではないでしょうか。それくらい危険な状況だったと理解していただきたい。