「富める者がさらに富んでいる」ように見える

低金利が実体経済と乖離した株高をもたらしているという事実は昨年末の本欄への寄稿『「一体、誰が株を買っているのか」空前の株高を招いた“巨大投資家”の正体』で詳しく議論させて頂いたので、そちらをご参照頂きたいと思う。

ところで、こうした「実体経済と乖離した株高」に関する議論はそれ自体も注目されるが、頻繁に「富裕層のみが恩恵を受けている」という格差拡大の議論とセットで持ち出される。今回の株高は実体経済の強烈な落ち込みと共に発生していることから、一段と「富める者がさらに富んでいる」ように見えるはずである。

こうした「①低金利→②株高→③格差拡大」という思考展開はほぼ事実だが、①の背景には大規模な財政出動・金融緩和があるため「①財政出動・金融緩和→②低金利→③株高→④格差拡大」と考えた方が正確である。

さらに詳しく言えば、財政出動によって金利が跳ねて実体経済を毀損しないように金融緩和で国債が購入されているので、時系列で議論するならば、「財政出動→金融緩和」が正しい思考回路になる。

図表①は国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)の世界所得格差データベース(WIID:World Wealth and Income Database)から米国の個人純資産(personal net wealth)合計における上位1%が占める割合(以下、便宜的に不平等割合)を取得し、同国の政府・家計債務(%、対GDP)の推移を重ねたものである。

2000年初頭および2007~8年を境にして債務水準が切り上がり、それを契機として不平等割合も上昇しているように見える。ITバブル崩壊やリーマンショックといった大きな危機が起きるたびに財政政策や金融政策が強化され、株を筆頭とする資産価格が上昇し、純資産における不平等割合も上昇したことが推測される。

格差は債務から生まれる

ちなみにこの純資産を税引き前の国民所得(Pre-tax national income)に置き換えても構図は変わらない。危機の度に困窮する人が増え、それを救うために行われるマクロ経済政策が資産価格を押し上げ、「富める者がさらに富む」という状況が強化されてきた様子が推測される。

写真=iStock.com/hyejin kang
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もちろん、その都度打ち込まれるマクロ経済政策がなければもっと大変なことになっていたはずなので、この結末を責めるわけにはいかない。そもそも、大きな危機で財政出動を声高に求めるのは富裕層ではなく、格差拡大で置き去りにされる困窮する側の人々である。

その結果として生まれた大きな格差が問題だというのであれば高い所得や資産に課税して、再分配を強化するしかない。「政策によって富んだのだから、取り上げても問題ない」という発想もあるだろう。事実、日本も含めて主要国はそうなってきているし、国政選挙の結果にも影響を及ぼし始めているのは周知の通りだ。

以上の議論を踏まえると、「格差は債務から生まれる」という事実が見えてくるが、恐らくは感染拡大が続き、財政対応を停止することができない2021年もそれは続くと考えられる。