プロ転向に反対していた妻が最終的に認めたワケ

今夏、プロになった福田は11月18日に新たな所属先と契約した。そのチームがすごかった。男子マラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)、同世界歴代2位の記録を持つケネニサ・ベケレ(エチオピア)、ベケレが15年以上保持していた5000mと10000mの世界記録を塗り替えたジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)らが所属する「NNランニングチーム」(以下NN)だったからだ。

NNはエヌエヌ生命保険がスポーンサードしており、オランダにあるマネジメント会社のグローバルスポーツコミュニケーションが主に運営している。チームの拠点(練習場)はケニア、エチオピア、ウガンダにそれぞれあるという。現在は60人ほどの選手が所属。大半はアフリカの選手だが、ヨーロッパの選手も10人ほどいて、アジア人では福田が初めての加入だった。

陸上界では大迫傑が米国を拠点にしていた「オレゴン・プロジェクト」に加入した以上の衝撃と言ってもいいだろう。大迫が海を渡ったのは22歳のときだが、福田は30歳を迎えるというタイミング。サッカーでいえば日本代表を経験したことのない30歳前後の選手が、欧州の超ビッグクラブに移籍する感覚に近い。

なぜ「世界最強チーム」が加入を許したのか?

なぜこのような“奇跡”が生まれたのか。

それは福田が2020年2月に出場した別府大分毎日マラソンのフェアウェルパーティでNNのコーディネーターに、「ケニアの練習に参加させてほしい!」と直訴したのが始まりだった。

スタート直後、力走する福田穣(右、西鉄・当時)=2019年12月1日、福岡市内[代表撮影](写真=時事通信フォト)

「世界のトップは何をしているのか。単純に気になったんです。スピードスケートはオランダ、フィギュアや体操はロシアに行っていますよね。でも陸上は海外で練習する選手は多くありません。ケニアに行ったから強くなるわけではないんでしょうけど、ケニアの選手がやっていることを学んで、自分のものにできれば確実に力がつくと思ったんです」

近年はケニアで合宿する日本人選手は増えているが1カ月ほどの短期が中心。福田はケニアで長期的なトレーニングができないか考えていたのだ。当初はケニアでの練習参加依頼だったが、コーディネーターにプロフィールを送るとチームの加入を勧められたという。

「最初は本当に驚きましたね。コーディネーターからは『ユウキ(川内優輝=あいおいニッセイ同和損保)みたいで、うちにはそういう選手はいない』と言われました。福岡国際の2カ月後に別府大分に出たのが評価されたのかもしれません」

NNは、世界中のレースを転戦して、2018年のボストンマラソンを制した川内のような“強さ”を福田に感じたようだ。