嫁と姑の仲が悪いのは当たり前

【上野】樋口さんの世代の夫婦で、妻が夫に敬語を使っている家庭はあります?

【樋口】ほとんどないと思う。そういえば、松本清張さんの『砂の器』という小説があるでしょう? あの中にハンセン病のことが出てくるから読んだんですが、妻が夫に使う言葉が敬語ばかりでした。

【上野】小説の時代設定は何年頃でしたっけ?

【樋口】60年代頃ね。だから、私よりも上の世代。

【上野】私の世代も、周囲の学生に聞いても、妻が夫に敬語を使っている家庭はゼロでした。

【樋口】そのあたりはずいぶん変わりましたね。もっとも、うちの両親は二人とも明治生まれなので、母は父に向かって「お父様、何になさいますか?」でしたけどね。

【上野】それが今ではまったく消えてなくなった。

【樋口】そう考えると、嫁と姑の仲が悪いのは当たり前よね。自分は夫に敬語を使っていたのに、どこの誰とも知れない女が、自分の大事な息子に向かって「あんた、何してんの」って言うんだもの。

【上野】そこが、娘の母と息子の母で全然態度が違うんですよ。息子の母だと「嫁があんなふうで、息子がかわいそう」とか言って怒るのに、娘の母だとそうでもない。

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【樋口】そうそう。私の小学校時代の同級生は、やっぱり息子がかわいそうとか、嫁に威張られていると感じているわよ。ところが、彼女らの息子たちはみんな何かがあると決まって嫁サイドについて「ママが悪い」って言うんですって(笑)。

“頑張る妻”ほど、後々つらくなる

【樋口】今の話ともつながるけれど、私が今度書きたいものの一つが「嫁哀史」なんです。日本全体の女性の地位と諸悪の根源は、やっぱり嫁だと思う。でも、いい嫁ぶると後々つらくなるものね。だからダメ嫁と思われるくらいがちょうどよろしい。

【上野】そもそも、愛する息子を奪った女が「いい嫁」になれるはずがないですからね。

【樋口】そうそう。姑はそんなにしてくれと頼んでいるわけでもないのに、独り相撲をとって、勝手に疲れ果てて病気になったりしてね。いい嫁であろうとすると、相手を放っておけなくなるのね。

【上野】よく姑と嫁のいい関係について、「母と娘のようです」なんていう人もいるけど、ムリがあります。