“真面目な妻”ほど損をする、男の理屈

【上野】妻がまた真面目な日本の女なものだから、彼の言葉に納得しちゃったんです。それで家事と育児を全部背負い込んで、そのうえ、大学院の勉強もあって、さらにどんどんやつれていって。私が忠告しようとしたら、夫のほうが「上野さん、親戚のおばさんみたいなこと、言わないでください。僕ら、うまくやってますから」と。そういう理屈が男のほうで成り立っちゃう、驚くべきことに。今の樋口さんの話は妻が納得せずに説得したケースですが、このカップルは妻が納得させられてしまったケース。結局、妻は退学しました。どうかと思います。

夫として最悪なケース

【上野】労働組合運動や社会運動をやっている男性は夫としては最悪のことがあります。というのは、社会運動って正義とか大義のためにあるものじゃないですか。これが仮にモーレツサラリーマンだったら、「あなたがやっているのは、せいぜい会社の利益のためでしょう?」と言えるんだけど、社会運動をしている夫が走り回って家を顧みなくても、同じようには言えないというのを聞いたことがあります。

例えば、いわさきちひろさん(絵本作家/1918~1874年)の夫の松本善明さん(弁護士・共産党所属の国会議員/1926~2019年)も、戦後最大の冤罪事件といわれた松川事件なんかを手がけたりして立派な人ですが、朝早く家を出て夜遅くまで帰らない。だから、ちひろさんが女家長で、両親や子どもの世話、家計の維持まで全部やって、もうボロボロだったらしいんです。で、ある日帰ってきた夫に「あなたが悪い」って言ったんですって。そしたら善明さんが無邪気に「僕のどこが悪い? だって、僕は一日中いないんだよ」って(笑)。

【樋口】善明さん、何もしなくてもいいと思ってる(笑)。

【上野】これもすごい理屈でしょう? でも、ちひろさんが立派なのは、それを聞いて啞然として思わず吹き出して終わっちゃったこと。

【樋口】それで終わっちゃっていいのかしらね。

【上野】そうなの。でも、愛があったからいいんでしょう。

【樋口】だけど、男の人って必要なときに出てきて、面倒くさいときにすーっと引っ込んでくれる幽霊のような存在が、一番いいかもね。男にとっての女も同じかもしれないけれど。