社会学者の上野千鶴子さんは、「女性学」という学問を作ったパイオニアで、研究者として長く性差別と闘ってきました。親子ほど年が離れた漫画家でライターの田房永子さんが、大学闘争に参加していた上野さんの若かりし日々や、なぜ上野さんがフェミニストになったのかについて聞きました。

※本稿は上野千鶴子・田房永子『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』(大和書房)の一部を再編集したものです。

拳を上げる若い女性
写真=iStock.com/LordHenriVoton
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男の帰りを待つ女、男とデモに行く女

【田房】何を怖れる』の中で、「(大学闘争で)自分はバリケードの中でメイクもせずラフな格好で男と一緒に闘っていたのに、その男たちの彼女になるのはお化粧して身ぎれいにした女の子だった。それが自分がリブに参加したきっかけだった」って言ってる方が印象的でした。

【上野】米津知子さん(※1)の発言ね。そうなの、男の中にはダブルスタンダードがある。死地に赴く男を柱の影でじっと袖をくわえて見送り、待つ女。そういうタイプの女たちは、男の子が逮捕されて拘置所に入ると救援対策で差し入れ持っていったり、着替え持っていったりするのよ。「救対の天使」と呼ばれた。

【田房】ほうほう。

【上野】一方で男と一緒に隊列組んでデモに行く女がいて、こういう女性の中に「ゲバルト・ローザ」と呼ばれる女性がいました(笑)。

【田房】ゲバルト?

【上野】ドイツ語で暴力って意味。「ゲバ棒」とか聞いたことない? 「ゲバ棒」のゲバは、ゲバルトのゲバ。

【田房】「ゲバ棒」は聞いたことあります!

【上野】当時東大で男子と一緒にゲバ棒を持つ女の子がいたらしくて、その女性についたあだ名が「ゲバルト・ローザ」。ローザは女性革命家のローザ・ルクセンブルク(※2)からとったのね。同志とした女は恋人にせず、恋人には都合のいい耐える女、待つ女を選ぶ。これが男のダブルスタンダード。今の「総合職女と一般職女」(※3)とおんなじね。

※1 【米津知子】1948年―/女性運動家/2歳半でポリオにかかり、足に障害を持つ。「SOSHIREN 女(わたし)のからだから」「DPI女性障害者ネットワーク」メンバー。
※2 【ローザ・ルクセンブルク】1871―1919年/政治理論家、革命家/ポーランド生まれ、ドイツで活動した。
※3 【総合職と一般職】企業による採用コースの名称。1986年の男女雇用機会均等法を受けて、男女別で行われていた雇用管理を改めるために企業などで導入された。一般的に総合職は判断を要するような基幹業務、一般職は補助的な業務を行うとされる。導入された当時は「男性並みに働きたい総合職」と「結婚相手を見つけて寿退社を目指す一般職」といった対立構造で揶揄されることがあった。厚生労働省の調査委によると、2014年度入社の総合職採用者に占める女性割合は22.2%、一般職採用者に占める女性割合は82.1%となっている。