2019年11月末の時点で、全国の8288の病院のうち、国公立の病院は1240あり、全体の約15%を占める。民間病院に比べると規模は大きく、平均病床数は279である。国公立の病院は地域医療を支えるという役割のために不採算部門も維持しなくてはならず、また親方日の丸的な体質も少なからずあるため、民間の病院より赤字病院が多い(例えば都立の8病院は毎年約400億円の赤字を出している)。

しかし、こういう国公立の病院にはヤクザは近づかない。

土地・建物は国や自治体が所有し、予算は議会の承認を要し、医師、看護師、職員などすべてのスタッフは公務員で、国や自治体の職員も少なからず派遣されている。したがって、民間病院のように世間知らずの理事長一人を篭絡すればことがすむわけではないという難しさがある。

徳洲会と「いたちゅう、とだちゅう、あげおちゅう」

ヤクザによる乗っ取りとは別に、不振病院の救済合併は増えている。

写真=iStock.com/upixa
※写真はイメージです

現在、日本を二分する巨大病院グループは徳洲会と中央医科グループだが、彼らは不振病院を吸収しながら成長してきた。

徳洲会は、鹿児島県徳之島出身の医師で、現在はALS(筋萎縮性側索硬化症)で闘病している徳田虎雄が「失敗したら自殺して保険金で返す」と銀行から金を借り、創設したグループだ。北は北海道から南は沖縄県まで71の病院を有し、自ら建設した病院が多い。

一方、中央医科グループは、北海道出身の医師、中村哲夫が1956年に東京・板橋区に5床の診療所を立ち上げたところから出発した。関東を中心に約130の病院と、それ以上の数の介護・福祉施設、訪問看護ステーション、看護・医療学校を有する国内最大の病院集団だ。

旗艦病院は板橋中央総合病院、戸田中央総合病院、上尾中央総合病院の3つで、経費が安い地方の病院の収益を吸い上げ、最新設備を装備し、業界では「いたちゅう」「とだちゅう」「あげおちゅう」の略称で呼ばれる。

その他、葵会グループ、カマチグループ、平成医療福祉グループ、大坪会グループ、北九州病院グループ、ふれあいグループ、国際医療福祉大学(高邦会)グループなどが病院買収に積極的である。

見捨てられた公立病院を次々に吸収

ヤクザが手を出さない国公立の病院のうち、国や自治体が立て直しを断念した病院を譲り受けているのは、こうした医療機関だ。

カマチグループは2017年に品川区東大井の東芝病院を譲り受けたほか、佐賀県武雄市の武雄市民病院や埼玉県久喜市の埼玉県厚生農業協同組合連合会の病院などを譲り受けている。平成医療福祉グループ、葵会グループ、板橋中央医科グループは日本郵政から各地の逓信病院を譲り受けた。葵会グループは、神奈川県立の七沢リハビリテーション病院脳血管センターや川崎社会保険病院なども譲り受けている。