3.喪失感を強さに変える

「失っても失っても 生きていくしかないです どんなに打ちのめされようと」
(2巻第13話「お前が」より) 竈門炭治郎

恋人を失った青年に炭治郎がかけた言葉です。禰豆子以外の家族を鬼に殺された炭治郎が自分に言い聞かせるように紡いだ静かな覚悟と言えます。

人間の悲しみやつらさにはさまざまなものがありますが、とりわけ「喪失経験」はライフイベントの中でも大きなダメージを残し、感情調整が困難なときがあるもの。

「喪失」には、人や物、出来事などいろいろなかたちがあります。失ったその痛みから立ち直るには、他者と関わることと行動を起こすこと。どんなにつらく苦しくても、生きている自分があり、時間は止まらない。つらいことを忘れるのではなく、抱えながら前に進む。思い出と覚悟が自分を前に押し出してくれます。

4.心を燃やして前を向く

「胸を張って生きろ 己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと 心を燃やせ 歯を喰いしばって前を向け 君が足を止めてうずくまっても時間の流れは止まってくれない 共に寄り添って悲しんではくれない」
(8巻第66話「黎明に散る」より)煉獄杏寿郎

先の「失っても」を後押ししてくれる、杏寿郎の切なる信念の言葉です。『劇場版 無限列車編』でも聴ける名セリフです。

杏寿郎の一連の言葉は、これ以後の炭治郎や嘴平伊之助、我妻善逸の行動に大きな影響を与えました。鬼舞辻無惨と最後の戦いに挑んでいた炭治郎は、難しい状況の中で「それでも俺は 今自分にできることを精一杯やる 心を燃やせ 負けるな」(22巻第192話)と言い聞かせますが、杏寿郎の願いと思いが重なったものとなりました。

胸を張る・歯を喰いしばる・前を向く・心を燃やす。どれも俯かず前に進んでいくための態度です。つらいとき、悲しいときに俯き、蹲っていても何も変らないから、物事を良い方向へ変えられると信じ、未来に希望を持つ楽観力を心のエネルギーとしてたぎらせて立ち上がることの大切さを説いています。

一見、強い人にしかできないような言葉に聞こえますが、これまでのセリフと同様に、全て「言い聞かせて」いるのです。自己暗示のようにも見えますが、それが自己宣言になり、自己成就につながっていきます。自らに言い聞かせることは、思考転換を図り受け止め方を変えていく認知変容でもあります。

強い人ができることではなく、強く有りたい、強くなっていこうとするからこそ、出てくる言葉なのです。