極めて悪質なケースなら、条例で規定しなくても刑法で罰せられる

そもそも、都民ファーストの例示はどれも特異な状況です。繰り返し、同派議員が口にするのは「検査陽性者が飲み会に行ってそこで人に感染させる」という迷惑行為です。これだけを切り取れば、誰もが当たり前に「そんな奴は許さん」となります。私も完全に同意であり、そんな危険人物にはペナルティが必要です。

陽性者が意図的に他人に感染させようとした(させた)ことについて違法性を問うのであれば、現行法令でも、刑法の威力業務妨害罪(第234条)、傷害罪(204条)などの構成要件に該当する可能性があり、ことさら条例において罰則を規定しなければならない必要性が低くなります。

その場合は、都民ファーストが考えている5万円以内の過料よりも、はるかに重い罰則が適用できます。これらは故意犯ですから、都民ファーストが言うような極めて悪質なケースでは「刑法で罰せられること」を広く周知するほうが抑止力になるはずです。

参考に条文と罰則を記しておきます。

(傷害)
第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
⇒感染させるつもりで咳などにより飛沫をかけ、相手を感染させた場合等
(威力業務妨害)
第234条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
⇒陽性者が、「俺は感染者だ! 感染させてやる!」などと店内でわめき、店の営業を妨害した等

そもそも他人に感染させたことを立証するのは困難

冤罪えんざいのおそれもあります。そもそも、無症状陽性者も多く存在することも考えれば、陽性者が誰から感染したのかを証明することは困難であり、当該陽性者が外出したことを原因として他人に感染させたことを立証することは困難です。誰が誰に感染させるか分からないからこそ、年初来、医療現場や私たちの政治・行政レベルで頭を抱えているわけです。

もし、仮に、陽性反応が出たAさんが飲み会に行った場合を考えます。10人の参加者がコロナ陽性となったとしても、Aさんが感染源とは誰も特定できません。もしかすると、別の参加者がスプレッダーになっているかもしれないのです。つまり、この飲み会開催時点で陽性判定が出ていない者が感染源の可能性もあるのです。故に都民ファーストの制度設計では冤罪えんざいを生む可能性が高いと言えます。