自宅療養者が隣接県に出回ってしまえば元も子もない
実は、療養中の感染者が「みだりに外出しない」ことなどを「努力義務」とするにとどめた条例を小池知事が議会に上程し、第3回定例会最終日の10月8日に成立しました。ここで「努力義務」としたのは現行感染症法が感染者の人権尊重を基礎としているためです。小池知事が、人権尊重や「感染症法が内包する必要最小限」という考えを意識した結果です。陽性者がみだりに出歩くという行為自体には注意、改善命令を出す条例こそが必要で、背景も抑えずに「感染させたら過料」まで持って行くのは乱暴な議論です。
私自身は、東京都総務局人権部に「コロナ差別を阻止すべき」ということを申し入れていて、実際に啓発活動について力を入れて展開しています。その意味からすると、緊急事態宣言下でもなく、徐々に「新しい生活様式」で次代を生き抜こうと新たな一歩を踏み出し、皆でコロナ禍を乗り越えるという新しいマインドになってきた今、罰則によって差別が助長される恐れがあってはなりません。
そして、別の観点からも心配なのは、この罰則が「東京限定」になることです。本来であれば、刑法で罰する事ができる極めて悪質な迷惑行為も、マスコミなどが「全国初の罰則付条例」などと煽っていますから、自宅療養者が、他県に出回ってしまったら、元も子もありません。この条例により隣接県にご迷惑をおかけする危険性すらあるのです。
時短要請対象外の時間にクラスターを発生させても罰せられるのか
違う条文も見てみます。
事業者が特措法第24条第9項又は第45条第2項に基づく知事の休業要請・時短要請に従わないで、よって、一定人数以上の感染を生じさせたときは、行政罰。ただし、ガイドライン遵守の場合除く(都民ファースト条例案第14条第4項)。
ここは大事な指摘ですが、特措法に基づく知事の休業要請・時短要請に従わなかったことと、一定人数以上の感染を生じさせたこととの関係は確認できません。マスコミは報道機関として、「夜の街でクラスター」「○○の飲食店でクラスター」などと連日伝えてきましたが、そこで、どんな対策がなされ、どんな従業員がいて、どんな客がいたのかまでは伝えず、事象だけを報道してきました。
その都度、ニュースになった同業種の店舗から人出が遠のくばかりで、都知事の発言やマスコミ報道は「テロ」だという魂の叫びを私に伝えてきた方は1人や2人ではありません。Withコロナ時代と言われる今に、このような条例案を出すだけで、また人の流れが止まる事を恐れるのは私だけではないはずです。
この点では、こんな考えもあります。例えば、時短要請に従っていない店舗で、時短要請対象外の時間(例えばランチタイム)にクラスターが発生した場合、時短要請に従っていなかったことと、クラスターを発生させたことに、罰則を科すほどの因果関係があるかは甚だ疑問です。
例えば、深夜営業を控える時短要請に従った店舗がランチタイムにクラスターを発生させた場合と、従わなかった店舗がランチタイムにクラスターを発生させた場合とでは、外形的には全く違いがないはずなのに、後者のみ罰則を科される可能性があるのは妥当ではないのです。