感染症法や特措法の範囲内で罰則を設けなければ憲法違反の可能性

まず、この条例案には憲法違反の可能性があります。憲法94条は「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」と規定しています。

つまり、今回のケースで言えば、感染症法や新型インフルエンザ特措法の範囲内で罰則を設けなければ憲法違反と指摘されるでしょう。特措法でも私権制限は「必要最小限」となっていますから、「都域内でのみ独自の私権制限を課さなければ特措法の目的を達成できない」といったような特段の事情がない限りは、罰則を付すのは憲法違反となるわけです。

ただ、私は過去に小池都知事に「違憲覚悟の条例制定」を求めた事があり、この発言を都民ファースト議員が私に向けてくることがあります。私が指摘したのはこういうことです。特措法に基づいて緊急事態宣言が出されると、対象地域の知事は休業要請などを行うことができます。あくまで、これは緊急事態宣言が政府によって出された時点で初めて知事が有する力です。

私が、当時違憲覚悟でと知事に向けたのは、突然にコロナが蔓延し、医療提供体制が逼迫ひっぱくする恐れが出たら、政府の決定を待たずしても「知事は緊急事態宣言時並みの権限を行使できる」とすれば、都民は安心するだろうというのが私の主張でした。言い換えれば、「東京アラート」でレインボーブリッジを赤く点灯させても、実効性や人々への影響力はなかなか見えなかったわけです。

夜の東京
写真=iStock.com/Melpomenem
※写真はイメージです

都の区域においてのみ罰則を科す合理的理由がない

それではここで各論を見ていきます。

陽性者が、就業制限・外出しないことに従わないで、よって、他人に感染させたときは行政罰である過料5万円以下ということについて(都民ファースト条例案第14条第2項及び第3項)。

前述のように(良し悪しは別にして)感染症法では、「強制力」が付随しているわけではありません。単なる「協力要請」にすぎない事項について、全国一律ではなく都の区域においてのみ、要請に従わない場合に罰則を科す合理的理由がありません。

首都圏においては、都県の境界を越えて都市部が連坦し、就業者や居住者が頻繁に往来しています。それにもかかわらず、都の区域においてのみ、要請に従わないことを理由の一つとして罰則を科すことは、条例の範疇を越えて、先に掲げた憲法94条に反するおそれがあります。

さらに、罰則を科すのであれば、条例ではなく感染症法を改正し、全国一律に同様の罰則を課すべきでしょう。東京だけ対象にすることが、そもそも実効性の観点からは疑わしいのです。都県境に壁や塀、関所などがあって、人流が把握できるなら意味はあるかもしれませんが、現実的には到底無理です。