アップでは映らなくとも緻密に作り込んだ歌集『讃美歌』
ただ、光子が生徒であった時代に用いられていたと思われる『讃美歌』を再現することは種々の理由から困難であったため、当時、実際に使用されていた、「日本日曜學校協會」編纂の『日曜學校 讃美歌』を参照して、私が、現在、理事長を担っている、日本のすべてのプロテスタント系ミッションスクールが加盟している「キリスト教学校教育同盟」の前身である、「基督教教育同盟會」が編纂した『基督教學校 讃美歌』が存在したこととした。
薬師丸ひろ子さんが、歌いながら手にされているのが、この『基督教學校 讃美歌』である。実際の放映では、この歌集のクローズアップ映像は使用されなかったが、テレビ画面に映り込まないアイテムであっても、これほどの細かな設定と準備がなされていることを、理解していただけるとありがたい。
歌詞もメロディも最初から完璧だった薬師丸さん
さて、薬師丸ひろ子さんの「うるわしの白百合」の収録当日、私は、キリスト教考証とキリスト教関係の所作指導のため収録に立ち会った。事前に、私は、「うるわしの白百合」の2節部分のみを歌われることを提案していた。15分という放映時間の中で、常識的に考えても、薬師丸さんの歌唱部分の尺は相当短いはずだと認識していたからである。
もし一部(一節)ということであれば、台本のイメージを踏まえても、2節がふさわしいと考えた。「かぎりなき/いのちに/さきいずる/すがたよ」という詩は、前日までに繰り広げられるインパール作戦、豊橋空襲という「絶望的な死」を悲しみながら、しかし、未来への限りない「いのち」を願うという意味でも、感動的ではないかということ、また、これは私のある意味、偏見でもあったのだが、1節の「イエスきみの/はかより/いでましし/むかしを」という、ダイレクトにキリスト教の中心的教理を表現する詩を、公共放送としてのNHKが放映するのには躊躇があるのではとも想定したからである。
ところが、薬師丸ひろ子さんは、1節と2節すべてを完璧に暗唱されて来られた。また、この「うるわしの白百合」という賛美歌は、アカペラで歌うのはかなり難しい曲である。しかし、薬師丸さんは、放映の通り、見事に歌いきられた。プロフェッショナルとは、こういうことかと感嘆した。