競争力と頑強性を同時に持て、というわけではない

【藤本】すなわち、競争優位を持つ国で集中生産し相互に輸出する「比較優位立地」と、輸送費の高い製品や部品は各国で分散生産する「現地生産立地」、この2つの立地原理を併用し、グローバルかつローカルなサプライチェーンを築くことは、これまでも、アフターコロナの今後も、基本的な経営戦略です。

そして、グローバル競争下でこうしたサプライチェーンの国際競争力を維持したうえで、大震災のような広域大災害や、今回のようなパンデミックが相次ぐ時代には、サプライチェーンの頑強性も必要になります。それがラインの復旧能力や代替生産能力です。つまりサプライチェーンの競争力と頑強性の双方を持つというバランスが重要なのです。

と言っても、競争力と頑強性を同時に持て、というわけではありません。平時には競争力ファースト、緊急時には災害対応ファーストというようにモードを柔軟に切り替え、その間のスイッチを迅速に行う、ダイナミックなバランス、あるいはサプライチェーンの柔軟性が必要です。

「災害対策ファースト」なら大災害の前に衰退してしまう

【藤本】たとえば、災害時にグローバルなサプライチェーンが一時的に止まってしまったことに狼狽し、サプライチェーンをすべて恒久的に国内に戻してしまえば、それは貿易の否定に近く、比較優位論の貿易原則から言えば、中長期的な競争力を失ってしまう恐れがあります。

いずれにせよ、今や「天災は忘れた頃にやって来る」のではなく、「天災は忘れないうちにやって来る」時代です。前述の緊急財は別として、コロナ禍で一般財まで、その会社や製品にとって「競争力ファースト」観点からみて最適のサプライチェーンをあえて無視して、「災害対策ファースト」の供給体制に無理に変えてしまえば、そのサプライチェーンは国際競争力を失い、下手をすれば次の大災害が来る前にグローバル競争に負けて衰退してしまうかもしれません。

撮影=プレジデントオンライン編集部
東京大学大学院の藤本隆宏教授。

——コロナ禍でも日本の工場が動き続けている事実は、今生き残っている日本の工場の頑強性を示しているのでしょうか。もしそうならば日本のものづくり現場は、なぜ頑強なのでしょうか。

【藤本】後者の質問からお答えすると、日本が災害大国であること平成からの30年間、苛烈なグローバル競争にさらされてきたからでしょう。

相次ぐ大地震や台風などの災害で多くの国内工場の生産ラインが壊されました。地震や水害で製造設備に損害を与える「見える災害」にこれまでも日本は何度も遭遇し、克服してきました。被災時にはラインを早期復旧し、もしもそれが難しければ一時的にでも別のラインで迅速に代替生産してきました。こうした経験値の高さが日本のものづくり現場にはあります。